ひとの音の聴こえ方は個人によって異なるのではと、前節で問題提起した。ひとの感じ方は五感と呼ばれていて、視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚に分類される。これらは外からの刺激による体の応答である。
図3は、ひとの刺激に対する応答を、聴覚と触覚を例に示したものだ。聴覚は音の振動を外耳→中耳→内耳を通して、脳に電気信号として送られ、うるさい/静かといった判断をしている。聴覚は左右の耳で感じているが、視覚(視力)同様、聴力も一般に左右で異なる。このことから、耳の機械的構造が聴力に影響していると考えられる。同じひとの左右の耳でも差があることから、個々人によってもっと大きな聴力差があることは予想される。
触覚に関しては、前回、定性的な評価方法を紹介した。例えば、指で物体に触れた場合には熱の流れ、物体の性状により、冷たい/温かい、硬い/柔らかいといった判断をしている。この際にも、指先端付近にあるセンサー(受容体)が触覚に関係していると思われる。触覚に関しても、同じ物体を触る際、どの指で触るかによって、微妙に感触が違うことが分かる。このことから、触覚も指の機械構造が関係していることが予想される。以下、聴覚と触覚に関してこれらを感知する部位について説明する(参考文献[2]〜[4])。
図4に、聴覚に関するひとの部位を示す。音とは空気の圧力変動で、その変動周波数が20〜20000Hzのときに、ひとはこれを音として認識する。この周波数はひとによって異なり、特に高周波数域は老齢化とともに聴こえる最大周波数は低下する。
音は空間を通ってひとの周辺で回折して耳介に達する。耳介は音を集録する機能を有し、その形から前方から来る音に対して、後方から来る音よりもより感受性が高い。これにより、音の来る方向をある程度判断できる。
耳の音の入口が外耳道でその先に鼓膜がある。鼓膜の内部は耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)につながっている。耳小骨は鼓膜の振動を増幅して、卵円窓に伝える。卵円窓には蝸牛があり、卵円窓の振動を聴覚受容体(聴覚を感じるセンサー)の反応に変換し、電気信号として脳に送られる。以上、述べたように、聴覚はその多くの部分が機械的に構成されている。
図5に、触覚に関するひとの部位を示す。指で物体に触れた際、場所、圧力、鋭さ、質感、時間を推測できる。これは図5左図に示す指表面直下にあるさまざまな機械受容器(Mechanoreceptor)で機械信号を電気信号に変換して脳で判断していることによる。
図5に、代表的な4種の機械受容器であるマイスネル小体、パチニ小体、メルケル盤、ルフィニ終末の位置を示す。このうち、マイスネル小体、パチニ小体は早い応答性を有し、その振動に対する応答性を図5右図に示す。一方、メルケル盤、ルフィニ終末は遅い応答性を有する。図5左図から分かるように、表皮、真皮の厚さ、材質は部位および個人によって異なるので、同じ物体に触れたとしても各機械受容器に伝わる刺激は異なるものと考えられる。
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