確かに昔はよかった、でもこれからも「いい」と思えるようにしていく。
「最近のクルマって面白くないな」って思ったことはありますか。面白くない理由はいろいろありますよね。
MTやFR(後輪駆動)の選択肢がない、大排気量のエンジンがない、電子制御が増えすぎている、ADAS(先進運転支援システム)がうっとうしい、衝突安全のために昔ほど自由なデザインが生まれない、SUVばかりだ、セダンがない、ホットハッチがない、エンジン車の販売規制が近づいてきた、欲しいクルマが高額で手が出ない、クルマに乗らない人が増えて残念だ……などなど、人それぞれ思うところがあるのではないでしょうか。
これは「昔はよかった」という気持ちとセットかもしれませんね。自分が若かったころは、と懐かしく思うだけでなく、生まれる前など知らない時代をうらやむ人もいます。そう思ったことがある人は、「CES 2023」(2023年1月5〜8日、米国ネバダ州ラスベガス)でのBMWの基調講演を見てみてください。クルマって面白くないままじゃないかも、と期待を持てると思います。
このコーナーは編集後記なので、ある程度偏りながら主観満載でお送りします。BMWの基調講演、とても気合が入っていました。CESの顔としてやる気満々だったのでしょう。
この「基調講演」とはBMWがセッティングしたものではなく、CESの主催者である全米民生技術協会(Consumer Technology Association、CTA)が登壇者を招いています。今回はBMWの他にAMDやステランティスが講演を行いました。
過去に自動車メーカーが登壇した基調講演は、偉い人がステージに立って、コンセプトカーが出てきて、クルマの未来をつらつらとしゃべり、1時間ほどで終了、という形だったと記憶しています。BMWも2025年以降に発売するEV(電気自動車)に関連するコンセプトカーを披露し、E Inkによってボディーカラーを変えるデモンストレーションなどをした点では過去の自動車業界の基調講演と同じですが、違っていたのは有名俳優が主人公の寸劇が用意されていたところです。
寸劇は「これは愛と友情の未来に関する物語です」と始まりましたが、景色のいい場所を駆け抜けていくのは1975年にデビューした初代「3シリーズ」で当然のようにMT、BGMは1980年代のヒットソングであるa-haの「Take On Me」です。全く未来を示す要素がない。
寸劇の主人公はアーノルド・シュワルツェネッガー(以下シュワちゃん)。撮影所に現れるとスタッフからCG合成用の全身タイツを渡され、「こんなもの着たくない、昔のリアルなやり方でやってくれないか」とシュワちゃんは嘆きます。「昔はよかった」の象徴のような発言ですね。スタッフからは「これが今のやり方なんだ、未来を恐れるな」と反論されます。
シュワちゃんがスタジオに入っていくと、BMWが今回のCESで披露したコンセプトカー「Dee」から話しかけられます(Deeはクルマですが、人工知能によって相手のことを理解しながらとてもよくしゃべります。詳細はBMWのプレスリリースをご覧ください)。最新テクノロジーの結晶であるDeeと、「昔はよかった」のシュワちゃんは何度も言い合いになります。なぜなら、Deeが「インターネットやデジタルの世界がない時代に人々はいったいどうやって生きていたのか」などと吹っ掛けるからです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.