DXは、単なるデジタル化ではありません。目指す姿の実現に向けてビジネスモデルを進化させるということです。このパラダイムシフトを成し遂げるためには、ビジネスに対するマインドセットもトランスフォーメーションする必要があります。
従来型のビジネスでは、モノの製造/販売を通じて対価を得ることが一般的でした。誤解を恐れずにいえば「モノありき」だったわけです。このマインドセットを「価値志向のビジネスデザイン」に変えることが大切です。
日本企業は、何か新しいことを始めようとする際にも類似の先行事例を探してしまう傾向があります。欧米の先進的なビジネスモデルを日本に持ち込んで展開しようとする例が多いのはそのためです。しかし、DXでは他社に先んじて新しいビジネスモデルを構築することが期待されます。「イノベーター的思考」で非連続な成長にチャレンジすることを志すべきです。
短期間での投資回収、個別または現場単位での改善を重視するところも日本企業の特徴といえるでしょう。アマゾン(Amazon.com)のように、創業から何年も赤字を計上し続けるようなビジネスは許容されにくいわけです。しかし、アマゾンがそうであるように「長期的、俯瞰的な経営判断」なくしてDXは成し得ません。
新しいビジネスを展開しようとするに当たって、戦略や実行計画を具体化することは大事ですが、「DX時代ならではのビジネス」を取り巻く事業環境は大きく変化することが予想されます。「アジャイルでの推進」によって、この変化に迅速かつ柔軟に対応すべきです。
そして、最も重要なことは、DXへの意志です。「DXが必要らしいから」「競合がやろうとしているから」という受け身の姿勢では、ビジネスモデルを進化させることなどできるわけがありません。「DXによる進化への強い意志」は必須のマインドセットといってよいでしょう。
DXの基盤となるデジタル技術は、日進月歩で進化しています。3年後には、今よりも倍以上高性能なシステムを半額以下で調達できるかもしれません。では、DXの推進を3年後に先送りすべきでしょうか。そのように考える人は、いつまでたっても「DXへの一歩」を踏み出せません。なぜなら、3年後になっても、そのさらに3年後には、よりよいシステムが出現するに違いないと考えてしまうからです。
結局のところ、未来を正確に予測することは不可能です。リスクを最小化しようとするのなら、常に先駆者を追いかけるフォロワーにしかなれません。未来を「想像」するのではなく、自らが「創造」しようと考える人でなければ、DXによるビジネスモデルの革新を成し遂げられないのです。
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本連載が読者の皆さまの視野を広げるだけではなく、「DXへの一歩」を大きく踏み出すきっかけになったとすれば幸甚です。その結果として、DXによるビジネスモデルの革新を実現するだけではなく、日本の国際競争力の向上、社会と経済全体の進化に至ることを切に願っています。(連載完)
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小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。近著に、『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。
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