国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第7回は、第2回で取り上げたDXで勝ち抜く4つの方向性のうち「収益機会を拡張するビジネス」の具体例として、Propeller Health、Kyoto Robotics、John Deere、LANDLOGの取り組みを紹介する。
前回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだ未来に創造される「DX時代ならではのビジネスモデル」の3つ目の方向性として「需給を拡大するビジネス」を解説しました。今回は、4つ挙げた切り口のうち最後となる「収益機会を拡張するビジネス」を取り上げます。
製造業の基本的なビジネスモデルは、優れた製品を開発、製造、販売し、対価を得るというものです。本連載の第2回で紹介したように、DXを推進すれば、モノを売ることのみならず、売ったあとのモノから得られるデータを活用し、新たな価値を創造できるようになります。つまり、製造業としての収益機会を拡張できるわけです。
Propeller Healthは、ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患を抱えた患者を対象に、IoT(モノのインターネット)やビッグデータなどを活用したデジタルヘルスを推進することによって、より効果的な医薬品の開発やQOL(Quality Of Life)の向上などを実現しようとする米国のスタートアップです。2010年に設立後、NovartisやGlaxoSmithKlineといった世界有数の製薬会社と提携するなど、着実な成長を遂げています。
Propeller Healthの主力製品は、IoTデバイスを搭載した薬剤の吸入器です。この吸入器を使用した患者は、アプリやWebサイトで今までの吸入歴を確認できます。吸入した時間だけではなく、場所も地図上に表示されるため、どういうときに発作が起きやすいのかを自分で振り返れます。定期的な吸入が必要な薬剤であれば、リマインドの通知も得られます。
吸入器を通じて得られたデータは、提携先の製薬会社やその薬剤を処方した医療機関に共有されます。患者の吸入歴を正確に把握することで、医薬品の開発や治療法の検討に役立てようという算段です。発作時に吸入する薬剤であれば、吸入された時間や場所を特定することで、発作が起きやすい環境条件を検証できます。吸入歴や症状を見た上で、処方する薬剤を見直すことも可能になります。
このビジネスモデルの優れたところは、情報提供の主体である患者にも多分にメリットがあることです。個人の行動を追跡するとなると、プライバシーの保護を理由に強い反発を受けることも少なくありませんが、進んで情報を提供したくなる仕組みを構築することで社会的受容を得ることに成功したといってよいでしょう。
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