国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第4回は、第2回で取り上げたDXで勝ち抜く4つの方向性のうち「場を創造するビジネス」の具体例として、PatientsLikeMe、OpenDesk、Seibii、Manbangの取り組みを紹介する。
前回は、DXが進んだ未来にあって、どのようなビジネスモデルであれば勝ち抜けるのか、その基本要件を解説しました。今回からは、実際にどのようなビジネスが生み出されているのか、本連載の第2回で取り上げた「場の創造」「非効率の解消」「需給の拡大」「収益機会の拡張」の4つの方向性に準じて具体例を紹介していきます。今回は「場を創造するビジネス」です。
第2回で解説したように、DXは「モノやサービスを取引する新たな“場の創造”」を容易にします。デジタル化によって不特定多数との自由なやりとりが可能になるからです。そのコンセプトは、「今までにはなかった場の創造」と「リアルな場のバーチャルへの転換」の2つに大別されます。
PatientsLikeMeは、2004年に設立された米国のスタートアップです。筋萎縮性側索硬化症(ALS)や多発性硬化症(MS)といった治療法がいまだ確立されていない難病を主な対象に、患者間で悩みや体験などを共有できるSNSを無料で提供するという「今までにはなかった場」を創造しました。
一般のSNSや患者会との大きな違いは、自身の疾患、症状、治療歴、年齢などのデータを登録することによって、類似の状況にある他の患者との交流の機会を得られることです。励まし合ったり、支え合ったりするだけではなく、治療やケアの方法、医療機関に対する評価、活用可能な支援制度などの情報を交換することも可能です。製薬会社や研究機関などから提供された最新の情報を知ることもできます。
PatientsLikeMeは、このSNSを通じて得られたビッグデータを匿名化し、製薬会社や研究機関などに提供することで収益を得ています。製薬会社や研究機関などからすれば、どういった患者がどのような悩みを抱えているのか、どのような治療を受けてどのような効果を感じているのかといったことを把握することで、医薬品や治療法を開発するに当たっての有効性や効率性を高められます。患者からしても、SNSに書き込んだことが自身の治療に還元されるのだとすれば、望ましいデータサイクルといえます。広告料を得るのではなく、利用者のデータを収益の基盤とすることで、Facebookに代表される一般のSNSとは異なるマネタイズスキームを構築することに成功したわけです。
機械翻訳の精度や機能性は日進月歩で高まっています。近い将来、「言語の壁」がなくなるとすれば、PatientsLikeMeは一気にグローバル展開を果たせるかもしれません。それは、日本の患者にとっても喜ばしいことです。日本を含めた世界中の情報が集約されることで、医薬品や治療法の開発スピードが格段に高まるとすれば、医療におけるインダストリアルトランスフォーメーションを成し遂げたといってよいでしょう。
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