国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第3回は、DX時代(DXが進んだ未来)を勝ち抜くビジネルモデルに求められる5つの要件について解説する。
前回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代(=DXが進んだ未来)に創造されるビジネスについて、「場の創造」「非効率の解消」「需給の拡大」「収益機会の拡張」の4つの方向性があることを紹介しました。今回は、どのようなビジネスモデルであればDX時代を勝ち抜けるのか、その基本要件を解説します。
さて、DX時代だからといって、収益を得られなければビジネスとして成立しません。持続的な成長を見込めなければ、投資を得ることも難しくなります。つまり、当然ではありますが、いかなるビジネスであっても「事業性=収益性×成長性」を有することは大前提となります。
では、どのような要件を満たしていれば事業性を得やすくなるでしょうか。DX時代ならではのビジネスを展開するのであれば、「需要性」「経済性」「先行者優位性」「競争優位性」「戦略性」の5つを満たすことが肝要です。「需要性」や「経済性」がなければ、ユーザーを獲得することも、リターンを得ることも困難です。「先行者優位性」や「競争優位性」がなければ、他社との競争に打ち勝てません。そして、「戦略性」がなければ、どれほど素晴らしいビジネスモデルであったとしても、実現には至らないからです。
最先端の製品であっても、それを必要とするユーザーがいなければ、ビジネスとして成立しません。それは、DXが進んだ未来のビジネスについても同様です。さればこそ、ユーザーの声を聞き、そのペインポイント(現状への不満や不便)の解消に資するビジネスを展開することは賢明な判断といえます。
しかしながら、ペインポイントの解消を主眼とするビジネスは、需要性の多寡を見極めやすく、レッドオーシャンになりやすいという側面もあります。ブルーオーシャンを狙うなら、今あるペインポイントの解消ではなく、新たな価値の創造を目指すべきです。
YouTubeはその典型例といえます。YouTubeが出現する前の世界において「動画を共有できないことは不満だ」という人は、ほとんどいなかったはずです。YouTubeが使われるようになって、はじめて一個人が作成した動画を見たり、YouTuberという職業が生まれたりしたわけです。YouTubeは、新しいライフスタイルとそれをもとにした新たな需要を創造したといっても過言ではないでしょう。
ペインポイントの解消を目的としないビジネスの需要性を的確に評価することは難しいです。だからこそ、DX時代ならではのビジネスを検討するに当たっては、今まで以上に「構想力」が問われます。誰に対してどのような価値を提供するのか、社会や業界にどのようなインパクトをもたらすのか、未来を見据えたビジネスモデルを思い描くことが枢要です。
新たに始めようとするビジネスに十分な需要性があったとしても、お金を払ってくれるユーザーがいなければ、ビジネスとして成り立ちません。ユーザーが「お金を払うほどの価値がある」と思うかどうかがポイントになるわけです。
ただし、その製品やサービスを利用している直接のユーザーからお金を得なくとも経済性を追求することは可能です。YouTubeやFacebookは、広告を収益の基盤とすることで世界的なビジネスへと飛躍を遂げました。テレビや新聞などと違って、広告を見た人や見た時間を特定できるからこそ、費用対効果も高まります。デジタルの特性を生かしたマネタイズスキームといえるでしょう。
IoT(モノのインターネット)デバイスによって製品の利用状況を把握し、データを匿名化した上で、外部に販売することも考えられます。デジタル化の進展によって、さまざまなデータをより安価に、リアルタイムに収集できるようになりました。デジタルデータを活用したビジネスは、個人情報保護への留意が必要とはいえ、今後の成長が見込めるはずです。
つまり、DX時代にあっては、直接のユーザーだけではなく、第三者からもリターンを得られる可能性を探究することが重要です。「経済性を見極める」ことに加えて、「経済性を生み出す」ことも大事になるわけです。
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