刃物メーカーの貝印は家庭用高級包丁の「関孫六 要」を2022年11月8日に発売したのに合わせて、同月21日に「関孫六 要」を製造する大和剣工場(岐阜県郡上市)などをメディアに公開した。
刃物メーカーの貝印は家庭用高級包丁の「関孫六 要」を2022年11月8日に発売したのに合わせて、同月21日に「関孫六 要」を製造する大和剣工場(岐阜県郡上市)などをメディアに公開した。
貝印は1908年に岐阜県関市で創業した。関市の周辺では焼き入れに欠かせない良質な赤土や水、松の木から作った木炭である松炭が豊富だったことから、鎌倉時代末期に九州から刀鍛冶が移り住み、以降、日本刀の製作が盛んになった。中でも室町時代後期に同地で活動した孫六兼元は優れた刀工として知られ、関の孫六とも呼ばれた。現在でも関市には刃物関連企業が集積し、ドイツのゾーリンゲン、英国のシェフィールドと並び世界三大刃物の街に挙げられる。
貝印はポケットナイフの製造に始まり、1932年には日本初の国産カミソリ替刃の製造を開始した他、1998年には世界で初めて3枚刃のカミソリ、2012年には世界初の音波振動カミソリ、2022年にはプラスチックを使わない紙と金属でできた世界初の紙カミソリを発売している。
グローバル展開も進んでおり、日本の他、米国、中国、インド、ベトナムに生産拠点を持ち、約90カ国で商品を展開している。海外売上高比率は欧米を中心に約50%に達している。特に米国には1977年に現地企業を買収する形で進出、米国で展開しているナイフブランド「kershaw(カーショー)」は軍隊や消防隊でも採用されているという。
現在はカミソリや包丁に加えて、爪切り、ハサミ、メスやトレパン(刃先が円筒形状のメス)などの医療用刃物や工業用特殊刃物など、刃物を中心に1万点に及ぶ商品展開をしている。使い捨てカミソリや爪切り、家庭用包丁において国内トップシェアを誇る。カミソリの刃を製造している小屋名第1工場(岐阜県関市)には、貝印の過去から現在に至る商品群が展示されている。
豊富なラインアップの背景には、貝印が掲げるのは「野鍛冶の精神」がある。野鍛冶は注文主の背格好を見て、用途などを聞き、その人向けの刃物や農具を作ったことから、貝印はユーザーと対話し、用途や癖などを理解してモノづくりに生かすことに取り組んでいる。ユーザーからの声に丁寧に答え続けた結果、商品数が広がっていったという。
かつての名工の名を冠した貝印の人気ブランド「関孫六」では包丁や調理器具をラインアップし、現在では商品点数は1200種類を超える。今回、新たに発売された「関孫六 要」は、その最高峰シリーズと銘打たれた洋包丁だ。
材料には特殊ステンレス刃物鋼を芯材としたHRC(ロックウェル硬さ)62〜63という高硬度の材料を新たに採用した。貝印 マーケティング本部 デザイン部 大塚淳氏は「もっと硬い材料はあるが、研ぎやすさや切れ味が長持ちすることも考慮して一番バランスが取れた材料になっている。また、コバルトフリーのため環境規制に対応している」と語る。
特徴的な刃の反りは鳥居形状と言われ、日本刀の形状が対象物に効率的に力が加わる機能性から着想を得た。「もともと日本刀は人を切るために最適な形に進化した。新しいシリーズを立ち上げる上で、食材を切るために最適な形として刃物のルーツである日本刀に立ち返って、切る機能を反りに込めた」(大塚氏)。
不規則な三本杉の刃紋は、刀工として特に優れた二代目孫六兼元の特徴を再現した。和包丁をルーツとする剣型形状は切り付けを採用し、肉の筋切りやニンジンの飾り切りなどの細かな作業がしやすいようになっている。
木に樹脂をしみ込ませた積層強化木の八角ハンドルは下に向かってテーパを付けることで、握りやすい形状になっている。口金部分はあえてえぐることでスリムにし、正しい持ち方を誘発、さらに「性別にかかわらず操作しやすくなる」(大塚氏)という。
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