今回公開した大和剣工場では家庭用から高級品までさまざまな包丁の生産をしている。「関孫六 要」に関しては、田原工場(岐阜県関市)でまず材料からレーザー加工で包丁の刃型に合わせて切り抜き、約1000℃に熱せられた電気炉の中で加熱。その後、常温までいったん冷やし、硬度の均一化と経年変化の曲りや割れを防止するサブゼロ処理のためにー80℃まで急速冷却し、さらに180℃に再加熱する。これらの熱処理を終えた刃体が大和剣工場に送られる。
大和剣工場では、まず刃体の外周をNC装置付きの研磨機で磨いてから、刃先の部分を薄くするスキ研削を行う。後の研磨工程と並んで刃紋の形成に重要な工程となる。その後、刃先の部分を研磨して滑らかなカーブがかかったハマグリ形状に仕上げてから、刃体全体をよりキメ細かく研磨をかけるグレージング工程を行う。
包丁本体とハンドルの結合部分を強化する口金は刃体に溶接する。柄と口金を溶接して固着することで、柄の中に水が入りにくくなり、柄の耐久性が増す。
ミラー研磨で鏡面になるまで磨き上げ、細かなガラスの粒子を吹き付けるショットブラスト加工を経て、刃体にハンドルや尻金を組み付ける。
包丁のハンドル部分や取り付けた口金、尻金部分は段差や表面を研磨することで、滑らかで美しいハンドルに仕上げていく。部位によって研磨するための研磨材が異なり、それぞれ熟練の職人が各部品の研磨を担っている。
仕上げとなる湿式刃付は水を掛けながら行い、摩擦による全く発生させないので、刃先がより滑らかになり切れ味が大幅に向上する。湿式刃付には熟練の技能が求められ、担当する従業員はわずか数人となっている。最後になめし皮でバリを取り、完成となる。包丁は1本ずつスポンジを切って切り味を確認、抜き取り検査で刃角度なども計器でチェックする。
包丁は構成部品が極端に少ない。従業員がひたすら研磨を繰り返し、1本の包丁に仕上げていく。貝印では一部製品で既にロボットを使った刃付けを行っているが、労働人口の減少が進む中でさらなる自動化にも取り組もうとしている。
「職人の技は大事だが、例えば生産量を上げようと思っても、職人が病気などで働けなくなって生産量を増やせなくなるリスクもある。そこは技術部門でAI(人工知能)の利用も含めて検討している。1つは職人の感覚の数値化に取り組んでいる。包丁は部品数が少なくやり方によっては可能だ。感覚の数値化は難しいが、AIも活用すればいずれ可能になると考えている」(貝印)
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