「エネルギーの流れ」はエネルギー循環システムの構築を指す。自動車部品における電動化や燃焼技術、熱マネジメントなどを、社会のエネルギーの効率化に応用する。
具体的には、再生エネルギーによる発電や創エネ(エネルギーをつくる)、データを活用した徹底的な省エネ(エネルギーをつかう)、燃料電池向けの水素やCO2循環、蓄電(エネルギーをためる)、熱マネジメントやCO2回収(エネルギーにもどす)といった取り組みによる循環だ。電気だけでなく、水素や燃料などさまざまなエネルギーを組み合わせてカーボンニュートラルを目指す。
水素生成や、熱を電気に変換する熱音響技術ではセラミック技術がカギを握る。エネルギー変換効率を高めた材料を開発するためのマテリアルズインフォマティクス活用にも取り組む。
デンソーでは既に、電動車の駆動用バッテリーを使ったV2Xや、CO2の回収や循環の実証をスタートしている。2023年以降でSOFC(固体酸化物形燃料電池)も導入する。自社工場での実証から開始し、他の業種や社会全体に広げていきたい考えだ。
「資源の流れ」は限られた資源で持続的にモノづくりを継続するための取り組みだ。リサイクル事業者などと連携して、低コストで高効率なリサイクルに向けた解体手法や再生材料の開発を進め、「サーキュラーエコノミー」の実現に近づける。
回収して再生した材料の劣化や強度低下を補う技術、廃車の解体に配慮したモジュール化や構造の設計、再生した材料の純度を高めるためにロボットを活用した精密な解体、解体後の材料の選別技術などを開発する。ガラスやタルクを代替するセルロースナノファイバーや、レアアースフリーの新材料など、代替材料も手掛ける。
現在、廃車の解体は多くの人手をかけており、効率が悪い部分もある。また、破砕して燃やすようなリサイクルもあり、CO2排出削減の余地が大きい。リサイクルの生産性を向上することで再生材料のコストダウンを図り、再生材料が新車の生産に再び活用される流れを作りたい考えだ。
「データの流れ」に関しては、サプライチェーンをデータでつなぐための標準プラットフォームを構築する。誰でも利用でき、安全にデータを共有できるようにする。例えば、クルマの使われ方、カーボンフットプリントやリサイクル状況の可視化、正規品の証明など多方面のデータを組み合わせることで、電動車の駆動用バッテリーのトレーサビリティーシステムを実現する。バッテリーのトレーサビリティーに関しては、NTTデータとシステム構築に着手しており、欧州のデータプラットフォーム「Catena-X」との連携も進める。
人流や物流、資源やエネルギーの流れから生まれるデータを組み合わせた新たな価値の提供を目指す。これに合わせて、2023年1月に組織変更を実施し、デジタルソリューションやサーキュラーエコノミー、FA、フードバリューチェーンなどの部門を傘下に持つ「社会イノベーション事業推進統括部」を立ち上げる。
デンソー CTOの加藤良文氏は「データの流れには共通部分がたくさんある。これまで、社会イノベーション事業推進統括部の傘下に来る部門はそれぞれのチームがSIerと組んでいたが、データの流れが共通しているということは、同じ技術でまとめられる。扱うリアルな商材が違っても、サイバーフィジカルのサイバー側の仕組みは同じ考え方とアーキテクチャで作った方が効率がいい。社会イノベーション事業推進統括部として取りまとめながらプラットフォームを構築する。システムインテグレーションとしては、社内でも大きな事業体になるのではないか」とコメントした。
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