メルカリ並みに手軽な越境ECも、「眼鏡の町」鯖江市が進めるモノづくりDX未来につなぐ中小製造業の在り方(1/2 ページ)

福井県鯖江市は眼鏡産業を中心とするモノづくりの町だ。コロナ禍で大きな打撃を受けたが、その対策として積極的なDXを推進している。同市の取り組みは単なるデジタル化ではなく、その先のデータ活用を通じたサービタイゼーションまで見据える。

» 2022年12月15日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 福井県鯖江市と聞けば、多くの人は「眼鏡づくりで有名な町」と連想するだろう。実際に同市の公式Webサイトによると、眼鏡フレームの国内生産シェアの約96%を同市が占める。同市の掲げる「めがねのまちさばえ」というキャッチコピーに恥じない実績を持っているといえそうだ。

鯖江市のWebサイトには「めがねのまちさばえ」のキャッチコピー 出所:鯖江市Webサイト

 実は眼鏡だけではなく、鯖江市は漆器や繊維などの有力な産地としても知られている。鯖江市は、多くの人が何らかの形でモノづくり産業に携わっている町なのである。

 しかし、コロナ禍によって市の産業は大きな影響を被った。これまで製品展示会の中止に加えて、顧客の元に直接足を運ぶ形での販売もできなくなった。中小企業を多く抱える鯖江市にとっては深刻な悩みである。従来の販路に代わる、新しい販路の開拓が必要だった。

 そのため鯖江市の鯖江商工会議所は現在、同市のモノづくり産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進している。動画作成に加えてブロックチェーン技術やVR(仮想現実)/AR(拡張現実)などのxR技術を取り入れた製品の宣伝、リアルとバーチャルのハイブリッド展示会、越境ECなどの展開による販路拡大を目指す。

 ただ、鯖江商工会議所が目指す変革はこれにとどまらない。鯖江商工会議所 中小企業経営相談所 経営支援課 課長の田中英臣氏は「これからは産地中心のモノづくりではなく、消費者の視点を重視するモノづくりへと変革していくことが必要だ。そこではデータ活用が重要となる」として、それに併せて行政からの支援の仕方も変えていかなければならないと強い意気込みを見せた。データ活用を通じた将来の変革も見据えて、AOSデータのDXソリューション「AOS IndustryDX」も取り入れる。

鯖江商工会議所 中小企業経営相談所 経営支援課 課長の田中英臣氏(右)とAOSデータ 取締役の志田大輔氏(左)

動画スタジオを商工会議所に用意

 コロナ禍が生じるまで、鯖江市の製造業はDXを積極的に推進してきたとは言い難い状況にあった。「DXはコロナ禍を経験して売り上げの減少に直面した企業からのニーズを拾い上げる形でスタートした」(田中氏)。そのためまずは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による行動制約がある中での販路確保、拡大を目的としたDXを検討した。

 取り組みの1つが、動画を用いたPRだ。ただ当然だが、多くの地元企業は動画の制作ノウハウは持っていない。そこで、YouTube向けの動画収録や配信ができるスタジオを鯖江商工会議所の地下に開設して、産地にいながら商品をPRできる環境を整えた。

撮影スタジオの様子[クリックして拡大] 出所:鯖江商工会議所

 さらに製品の製作現場を収めた4Kや8K動画、360度動画も数種類制作した。海外のYouTuberを招待したコラボ動画も用意したようだ。加えてこれらの動画撮影は、「映像の制作会社に任せ切りにするのではなく地元企業と一緒に撮影することで、地元企業自身が動画の撮影ノウハウを蓄積できるように工夫した」(田中氏)という。

映像PRの取り組み[クリックして拡大] 出所:鯖江商工会議所

ハイブリッド展示会を開催

 コロナ禍を境に国内市場の規模縮小が改めて意識されたこともあり、海外市場に意識を向ける地元企業も増えたようだ。ただしこれまでは、「地方企業が海外に製品を販売するとなると、言語の壁や代金回収のハードルの高さがあった」(田中氏)ため、興味はあってもなかなか実行できない事情もあった。

 そこで鯖江商工会議所は「メルカリ並みの気軽さ」(田中氏)で販売できる越境ECのシステムを構想した。サービス名は「CROSS BORDER SABAE」で、これを使用した企業は国内の特定の場所に製品を送付しておくと、注文が入った際に自動で決済が行われ、そのまま海外に製品を発送できる。余分なランニングコストを抑えつつ、売れた際にだけ手数料が発生する仕組みだ。中小企業が世界市場を相手に事業を行う際の、足掛かりとしての活用を期待する。

CROSS BORDER SABAEの概要[クリックして拡大] 出所:鯖江商工会議所

 さらに、動画によるPRや越境ECの取り組みに続いて、リアルとバーチャル体験を組み合わせたハイブリッド展示会「MONOZUKURI EXPO 『MADE FROM』」も開催した。国内外から参加して製品購買もできるバーチャルモールなどを設置した他、リアル展示会ではMagic LeapのARグラスやスマートフォンなどを活用した製品のxR体験も取り入れた。展示されている製品の製造者の顔写真を専用アプリで読み取ると購入サイトに遷移する、といった体験もできる。「産地のデジタル化を通じて、生産者と消費者の出会いの機会を設けることを目指した」(田中氏)という。

展示会のイメージ(右)と、MONOZUKURI EXPO 「MADE FROM」のロゴ(左)[クリックして拡大] 出所:鯖江商工会議所

 海外の参加者にリアルで製品を体験してもらうため、旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)と連携してフランスのパリにサテライト展示場も開設した。越境ECの仕組みを通じて展示製品を購入することも可能だという。

パリのサテライト展示場の外観[クリックして拡大] 出所:鯖江商工会議所
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