IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第29回は、TIが提供するRTOSである「TI-RTOS」を紹介する。
今回ご紹介する「TI-RTOS」は名前の通り、TI(Texas Instruments)が提供するリアルタイムOS(RTOS)である。ターゲットとなるのは当然TIのMCUということになるわけだが、こちらはもともとはTIの手によって開発されたものではなく、別のメーカーが開発していたRTOSを買収し、自社製品向けに提供するという形である。この辺りの構図は旧Freescale Semiconductorの「MQX」などと同じである。
TI-RTOSの元となった「SPOX」は、DSP向けのRTOSである。開発したのは1987年創業のSpectron Microsystemsで、DSP向けシステムの開発やデジタル信号処理、アルゴリズムの開発、インテグレーションなどを手掛ける独立系ソフトウェアハウスである。ちなみに現在“Spectron Microsystems”を検索するとなぜかSpectron Technologiesが引っ掛かるが、こちらは中国に拠点を置く全く別の会社なのでご注意を。
さて、Spectron Microsystemsが1998年にリリースしたのがSPOXである。SPOXもバージョンが結構いろいろあるので当初から全部の機能をサポートしていたわけではないが、TIによる買収前夜にあたる1997年時点での特徴は以下のようになっていた。
面白いのは、SPOXは必ずしも単独で動作するわけではない場合を想定していることだ。これは、ホストにDSPを積んだ拡張カードの形で搭載され、この上でSPOXが動いてサブシステムの処理を行うといったケースが多かったためだろう。これに向けて「SPOX-LINK」というホストと接続するためのライブラリが提供され、MS-DOSやWindows、UNIX、VxWorksなどとシームレスに接続できるとしていた。
具体的には、DSPターゲット向けのAPIとホスト向けのAPIが用意され、これらを利用して相互に簡単に通信が行えるようになっていた。他にもFFTやデジタルフィルターなどを含む175種類もの数値演算ライブラリである「SPOX-MATH」、ソースコードデバッグの可能な「SPOX-DBUG」、マルチプロセッサ環境で利用できるようにするための「SPOX-MP」なども提供された。SPOX-MPの場合はカーネル自身もマルチプロセッサに対応したものになっている。
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