三菱電機が品質不正の調査を終了、総数197件に上り柵山前会長も課長時代に関与品質不正問題(1/2 ページ)

三菱電機が、一連の不適切検査に関する調査報告書の第4報と、ガバナンスレビュー委員会による執行役/取締役の経営上の責任とガバナンス体制・内部統制システム全般の検証の結果を説明。再発防止に向けた「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革をどのように進めていくかについても報告した。

» 2022年10月21日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
三菱電機の漆間啓氏 三菱電機の漆間啓氏

 三菱電機は2022年10月20日、東京都内とオンラインで会見を開き、2021年6月末に判明した一連の不適切検査に関する調査報告書の第4報と、同年10月に設置したガバナンスレビュー委員会による執行役/取締役の経営上の責任とガバナンス体制・内部統制システム全般の検証の結果を説明するとともに、再発防止に向けた「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革をどのように進めていくについて報告した。

 今回の第4報で国内22製作所などの全ての調査が完了し、約1年4カ月にわたる調査委員会は最終報告書を提出した。また、ガバナンスレビュー委員会も検証結果や提言をまとめた最終報告書を提出しており、外部専門家から構成される両委員会は活動を終えて解散することになる。

 調査委員会の最終報告書では、国内従業員の約93%に当たる5万5302人からのアンケート結果と、同委員会への個別の情報提供やヒアリングによる新たな申告から合計2362件の要調査事項を抽出し、17製作所で197件の品質不適切行為を確認した(静岡製作所、群馬製作所、京都製作所、産業メカトロニクス製作所、高周波光デバイス製作所の5製作所では確認されず)。第4報で新たに報告があったのは、伊丹製作所が10件、長崎製作所が3件、コミュニケーション・ネットワーク製作所が2件、電力システム製作所が1件、系統変電システム製作所が4件、稲沢製作所が2件、通信機製作所が2件、中津川製作所が3件、名古屋製作所が1件、姫路製作所が33件、三田製作所が9件の合計70件となる。

調査報告書の第4報で新たに報告があった品質不適切行為 調査報告書の第4報で新たに報告があった品質不適切行為。社会システム事業本部と電力・産業システム事業本部傘下の製作所[クリックで拡大] 出所:三菱電機
調査報告書の第4報で新たに報告があった品質不適切行為調査報告書の第4報で新たに報告があった品質不適切行為 調査報告書の第4報で新たに報告があった品質不適切行為。ビルシステム事業本部と電子システム事業本部、リビング・デジタルメディア事業本部(左)とFAシステム事業本部と自動車機器事業本部(右)傘下の製作所[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 なお、第3報までで品質不適切行為の件数カウント方法が統一されていなかったため、第3報の時点で発表された148件という累計件数は127件に訂正されている。

 三菱電機 執行役社長 CEOの漆間啓氏は、両報告書の提出を受けた総括として「一連の不適切行為を招いたのは、第一に、経営者としての本気度が足りず、現場が抱えるさまざまな課題や悩みを丁寧に拾い上げることができずに、顧客との関係で不誠実な多くの対応を生み出し、社会に大きなご迷惑を掛けることになったものと考えている。これからは、経営の本気度が現場に十分に伝わるように、現場と経営層のコミュニケーションの在り方を抜本的に見直し、現場の課題の解消に経営層が責任を持って関与し、不適切行為の発生を未然に防ぐ全社的な仕組みを構築していきたい」と語る。

意図的な実測値の修正に元会長の柵山氏が関与

三菱電機の柵山正樹氏 三菱電機の柵山正樹氏(2018年12月のJEITA会見の写真)

 第4報で追加された70件のうち、衝撃を持って受け止められたのが、三菱電機の前取締役会長で現在はシニアアドバイザーを務める柵山正樹氏が課長時代に関わった案件の存在だ。電力システム製作所において、1991年〜2016年10月にかけて、タービン発電機の「損失」と「効率」について、顧客との契約上実測値を提出しなければならないにもかかわらず、意図的に実測値を修正した虚偽の値を試験成績書に記載し顧客に提出していたという品質不正があり、同製作所で設計部門の課長を務めていた時代の柵山氏の関与が認められた。

 この実測値を修正した虚偽の値は、公的規格で許容される範囲内であり製品の性能や安全性に問題はなかった。実測値の修正の要否と修正後の数値の検討は、1992年10月から「工場試験結果速報」という内部書類によって行われるようになり、この運用を始めたのが柵山氏だった。柵山氏は「損失測定方法の限界に起因する誤差を含むため実測値の信頼性が低く、測定結果を基に設計担当者と試験担当者に検討を行わせ、真値と思われる数値を追求させ、試験制度や設計制度を向上することを目的としていた」と述べている。

 実際に、試験でタービン発電機にエネルギーを入力する駆動機がインバーター化されておらず回転が安定しないなどの理由もあり、損失の実測値には誤差が含まれているという認識だった。しかし、実測値修正という運用が、真値を追求し設計精度を高めることが目的だったとはいえ、公的規格で求められる実測値ではない虚偽の値を試験成績書に記載して顧客に提出していたことは事実であり、個別の契約条件によっては契約違反を構成する可能性もある。2016年10月からは、駆動機のインバータ化などで誤差修正の必要がなくなり、実測値修正は行われなくなったという。

 なお、担当部署の回転機製造部内では品質不正という認識はなく、この運用が公然とやりとりされ、工場試験結果速報などの関連資料も全て残されていることなどから、故意性は低いという調査結果となった。2016〜2018年度の自己点検では、当時社長だった柵山氏は、誤差修正という正当化の下で、不正であるという意識が乏しかったことから自ら申告しなかった。

 ガバナンスレビュー委員会の最終報告書に基づく役員の処分は10人が追加され総計22人となったが、柵山氏の処分は2021年12月の発表で行われた「基本報酬月額50%×6カ月分の自主返納要請」から変更はない。これは、今回明らかになった品質不適切行為は柵山氏が課長時代のものであり、ガバナンスレビュー委員会が問う経営上の責任とはつながらないためだ。ただし柵山氏は、シニアアドバイザーを辞職する意向を固めており、三菱電機もこれを了承したとしている。

 この他にも、自動車機器事業本部傘下の姫路製作所で第4報の70件の約半数に上る33件が報告された。自動車機器事業本部は、品質不適切行為の総数が事業本部別で最多となる75件に上り、意図的な不正が8割の60件に達するなど、これまで問題を強く指摘されてきた社会システム事業本部よりも悪質な状況が指摘されている。

三菱電機の品質不適切行為の内訳 三菱電機の品質不適切行為の内訳。各製作所において意図的が非意図的か、管理職の関与などが示されている。なお、第1報〜第3報件数の()内の数字は、件数カウント方法統一前のものだ[クリックで拡大] 出所:三菱電機
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