イマクリエイトが発明したVRトレーニングの仕組は非常にシンプルだ。だからこそ、後発に模倣されるリスクはないのだろうか。
山本氏は競合にはない優位性を3つ挙げる。1つ目は、立体的な動きを効果的にキャプチャーする技術を社内に保有している点だ。CTOの川崎氏は東京大学 先端科学技術研究センターの博士課程でXR技術を研究してきた経験があると同時に、同研究センター教授の稲見昌彦氏が同社の技術顧問に就くなど学術的なアプローチを製品に反映している。
2つ目は、ソフトウェアを作り込む上での要点を押さえている点だ。既にけん玉、ゴルフ、溶接に加え、医療現場の注射など、さまざまなVRトレーニングを開発している知見を生かしている。作業の精度を決定する複数の要素をパラメーター化し、速度や動き、位置によって、どのような結果になるのかを細かくヒアリングして、プログラムに反映している。この一連のプロセスにおける勘所を熟知していることがイマクリエイトの強みだ。
そして3点目は、VR空間上での難易度調整だ。溶接なら視界の明るさ、けん玉なら球の速さなど難易度を左右するトリガーポイントを押さえ、細かく難易度を調整することがVRトレーニングでは重要だという。溶接だけでも難易度を構成する要素は多数あり、それらの相関関係も見ながら難易度をチューニングするノウハウが同社にはある。また、コントローラーの持ち手が画面から消えるといったVRにありがちなトラブルも先回りして対策するなど、VRを知り尽くしたUX(ユーザーエクスペリエンス)を作り込んでいる。
つまり、単純に視野が明るいVR溶接トレーニングや、球の速度が調節できるけん玉VRトレーニングシステムを開発しても、イマクリエイトと同じ効果が得られるわけではない。そこには、さまざまな要素を緻密に組み合わせた独自のアルゴリズムが存在している。
こうした技術力を武器に、今後はVRトレーニングのバリエーションも増やしながら、海外進出も目指す。また、2022年9月には住友商事、InnoJinとともに小児向けのVR弱視治療用アプリの共同開発も発表。メディカル分野にも進出し、活躍の場を広げている。2022年6月には東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)やMonozukuri Venturesなど国内投資家から1.8億円の資金調達を実施し、さらなる加速に向けた準備が整った状況だ。
山本氏は「まずはVR空間で試すことが当たり前の世の中にしたい」と、将来のビジョンを述べる。そのために、AI(人工知能)による学習結果のフィードバック機能や、複数人が同じ空間でトレーニングできる仕組みなど、新しいアイデアの実装も進めているという。少子高齢化が加速する製造業だが、テクノロジーを駆使した効率的な学習システムや危険予知システムなど、人間が安全かつ効率良く働けるデバイスやソフトウェアの開発は世界中で進んでいる。事業会社やVC(ベンチャーキャピタル)の投資も活発で、今後の伸びしろが大きい分野だ。そういった環境でイマクリエイトは、独創的な開発哲学で世界に打って出ようとしている。
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