研修用シミュレーターは、現実世界の忠実な再現を目指したものが多いが、実際には現実の劣化コピーに近い体験であるが故に、難しい作業になればなるほど再現度は低くなる。その解決策として、使用するハードウェアをリッチなものにすることで、ソフトウェアの再現度の低さを補うというアプローチも考えられるが、それではコストが割高になってしまい、導入先が限られてしまう。
こういった課題に対して、イマクリエイトは溶接作業時に学習のハードルとなっている要素を複数抽出し、それらを解消できる仕掛けをVR空間に盛り込んでいる。例えば、溶接マスクなしで作業しているような明るさの再現や、定量化しにくい動作の数値化はVRだからこそできることだ。他にも、至近距離で手の動きを確認したり、自らの手を熟練工の手に重ねたりすることも現実世界ではできない学習方法だ。
こうしたVR空間だから実装できる条件を付与することで、習熟スピードがアップできることにイマクリエイトの強みがある。ハードウェアは市販されているHMDとコントローラーがベースとなっているので、調達に苦労することもない。実際の導入事例でも実技で学んだグループとVRで学んだグループに分けて技能を検証した結果、VR組は1日分習熟スピードが早く、評価試験でもより高い結果を残したという。
この仕組みを考えたきっかけは、CTO(最高技術責任者)の川崎仁史氏の特技であるけん玉だった。川崎氏はけん玉4段の資格保有者で、VRを使ったけん玉のトレーニングシステムを個人で開発。けん玉が全くできない川崎氏の母と妻に試したところ、5分程度で初歩的な技ができるようになった。
その秘密は重力にある。VR空間上で玉の速度を遅くし、スローモーションの状態から練習を始め、徐々に球の速度を現実の速度に近づけていくことで技の習得期間を短縮できるのだ。
初心者にとってボトルネックになっている要素をVR空間で解消し、徐々に現実に近づけることによって短期間で技術をマスターできる――。シンプルだが誰も気が付かなかった手法であり、「VR版コロンブスの卵」とでも言うべき発想だ。川崎氏はNTT研究所を経て2019年3月にCanRという自身の会社を設立。けん玉がきっかけとなったVRトレーニングをゴルフに応用しようとしていた。
一方、CEO(最高経営責任者)の山本彰洋氏は、住友商事でアジアや中東地域への自動車輸出や、東南アジア向けの電力事業に従事した後に独立。2019年1月に体験者シェアリングという会社を立ち上げ、360度動画配信サービスを開始していた。2人はお互いに創業1年目で参加したインキュベーションプログラムで知り合い、親交を深める。その中で、山本氏は川崎氏のVR技術にほれ込み、川崎氏も山本氏の事業開発や営業経験など、自分自身に欠いている能力に魅力を感じたという。その結果、2人は2019年8月に合併を決断。同年10月1日にイマクリエイトとして再スタートを切った。
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