数々の産業用ロボットを開発してきたデンソーらしいFAの技術も取り入れようとしている。
農場で実証実験を進めているのが、デンソーのミニトマト自動収穫ロボット「FARO(ファーロ)」だ。アームの先端と筐体に付いた計3台のカメラで得られた画像から、AI(人工知能)がミニトマトの房を検出して成熟度も判断、アームを伸ばし房ごとハサミで切り取る。農場でのデモンストレーションでも、まだ青いミニトマトには手を付けず、赤く実ったミニトマトを判別して房ごと切り、カゴに収めていた。
通常、ミニトマトは養分が届きやすい房の上の実から赤くなる。しかし、アグリッドでは品種選定と栽培方法で、同じ時期に赤くなるように工夫している。これにより、房取りが可能になる。
開発当初は、現在の房取りではなく1個ずつ取るロボットも志向した。実用性を考えて方針を転換した。「そうすれば開発スピードも上がり、コストも下がる。あくまでロボットと人と一緒に働くことがコンセプトで、機械に全てやらせる気はない」(清水氏)。
その先に描くのは、日中は人の手で、夜はロボットが収穫する、世界初の24時間農場の実現だ。「あと数年待ってください」(清水氏)とまだ道半ばだが、ロボット自体は海外で先行投入予定となっている。ロボットの熟度判定機能を使えば、夜のうちに次の日に作業者が収穫すべきミニトマトの位置も分かる上、作業者が収穫しなければならない量も減る。「収穫は農場の仕事の60%を占めている。その2、3割をロボットが担えば収益構造に変化が出る。これも工業の考え方」(同氏)。
ただ清水氏は「われわれは工業の考え方を取り入れることが目的であって、ロボットや機械を導入することではない」とも強調する。「農業は収穫しただけではお金にならない。出荷して初めてお金になる。そのため出荷を見据えた生産統合管理システムを開発し、人と機械をシームレスに融合させる」(同氏)。
デンソーが生産者として既存農家と競う考えはない。アグリッドの農場は、新しい農業の在り方をデンソーが自ら汗水流して試す実験場の位置付けでもある。収益を上げるのはアグリッドの取り組みに説得力を持たせることにつながる。
日本は農家の高齢化が進み、新規就農者も減少傾向にある。その中で、アグリッドは農業の新たな可能性を示そうとしている。
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