現代のモノづくりにおいて、3D CADやCAE、CAM、3Dプリンタや3Dスキャナーといったデジタル技術の活用は欠かせない。だが、これらを単に使いこなしているだけではデジタル技術を活用した“真の価値”は発揮できない。必要なのは、デジタル技術を活用し、QCDの向上を図り、安全で魅力ある製品を創り出せる「デジタルエンジニア」の存在だ。連載第1回では「デジタルエンジニアの定義と必要なこと」をテーマにお届けする。
皆さん、こんにちは! 小原照記(おばらてるき)と申します。普段は岩手県の「いわてデジタルエンジニア育成センター」という施設で3D CADを中核とした、デジタルエンジニアの育成と“企業さんの困りごと”を聞いて支援する仕事をしています。当センターではいろいろな3D CADをはじめとした設備を保有しており、学生や企業の方たち向けに講習会を開催したり、3Dプリンタによる試作や3Dスキャナーを使用しての検査/リバースエンジニアリングなどの受託を行ったりしています。
本連載では「デジタルエンジニアの重要性と育成のコツ」についてお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いします。
今や誰もがスマートフォンを持ち、いつでもどこでもインターネットにつながる環境の中で、さまざまな情報にアクセスできるようになりました。また、IoTと呼ばれる「モノのインターネット」によって、さまざまなモノがインターネットとつながり、遠隔操作や状況確認などが行えるようになり、AIと呼ばれる「人工知能」によって、多くのデータを分析し最適化することが可能になってきています。
このような技術革新が進む中、モノづくりの世界において求められているのが、デジタル技術を活用し、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の向上を図り、安全で魅力ある製品を創り出せる「デジタルエンジニア」の存在です。
ここでのデジタル技術とは、製造業の中で設計ツールとして使用されている「CAD(キャド/Computer Aided Design)」、強度や機構検証を行う「CAE(シーエーイー/Computer Aided Engineering)」、切削加工用のプログラムを作成する「CAM(キャム/Computer Aided Manufacturing)」、3Dプリンタや3Dスキャナーなどのことを指します。そして、これら技術を用いたモノづくりのことを「デジタルエンジニアリング」と呼びます。また、デジタル回路設計やC言語などのプログラミングもデジタル技術と呼ばれ、デジタルエンジニアの定義が広がってきています。
とりわけ、モノづくりの世界では、3D技術を使い、設計物の形状をコンピュータ上に立体物として作成(デジタル試作)し、組み立て検証や干渉チェック、質量および重心の確認、さらには強度検証や熱解析などのシミュレーションが行われ、モノを作ってからの手直しをできるだけ少なくし、手戻りを削減する取り組みが進められています。
コンピュータで設計した形状を実物で確認したい場合には、CAMを使用してNCプログラムを作成し、工作機械で削り出したり(切削加工)、3Dプリンタで積層造形したりして素早くモノを手にするといったことも可能です。そして、こうして作られたモノを使ってさまざまな検証を行ったり、実際にパーツとして製品に組み込んだりしています。
また、3Dスキャナーを用いて現物を3Dスキャンし、コンピュータ上に3Dのデジタルデータとして取り込み、リバースエンジニアリングに活用したり、検査や大切なモノをデジタルデータとして保存したり、3Dプリンタなどで再製作したりといった用途に用いられています。
デジタルエンジニアリングの活用は、設計者だけにとどまりません。例えば、生産現場の人やロボットの動きを3Dデータでシミュレーションしたり、3Dスキャナーを活用した自動検査が行われたりなど、生産技術や品質管理部門などでも活用されています。他にも、営業や購買といった部門でも設計者が作成した3Dデータを基に、商談や部品発注などが行われています。
さらに、「VR(仮想現実)」や「AR(拡張現実)」といった技術が使われるようになり、「デジタルツイン」と呼ばれるフィジカル(現実)とバーチャル(仮想)の空間を融合させたモノづくりが進んできています。
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