株式買取請求権とは、投資実行後に、投資契約上の義務の重大な違反があり、これを一定期間内に治癒できない場合や、表明保証条項に違反した場合※13などに、投資家が、その保有する対象会社の株式を対象会社、創業者や第三者に売却することを認める権利のことであり、(投資家の)プット・オプションとも呼ばれています。
※13:違反の条件の定め方がいろいろあることは、これまで述べてきた通り。
米国の実務においては、株式に対する出資はリスクマネーの供給と認識されているため、投資契約(株式引受契約)においてプット・オプションが定められることはまれですが、日本ではプット・オプションが定められている投資契約も少なくないです。このプット・オプションは、例えば以下の理由から導入されています※14。
※14:宍戸善一=ベンチャー・ロー・フォーラム『スタートアップ投資契約 モデル契約と解説』(商事法務、2020年)245~246頁。
この点について、特に創業者個人を株式の買取義務者に加える場合においては、融資においてすら、経営者に対して個人保証を付けることは控えるべきとされている(中小企業庁「経営者保証に関するガイドライン」)にもかかわらず、リスクマネーを投入する出資において、創業者個人に保証させる(連帯債務を負わせる)ことには疑問が残ります。
そのため、プット・オプション条項は、公正取引委員会「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(以下、単に「実態調査報告書」という)において、一定の場合には問題事例として挙げられていることも踏まえ、その採否及び採用する場合の内容については、慎重であるべきでしょう。
なお、この際、優越的地位の濫(らん)用(独占禁止法第2条第9項第5号)に陥らないように注意すべきです。経済産業省・公正取引委員会の発行する「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」にも、「出資契約において株式の買取請求権を定める場合であっても、その請求対象から経営株主等の個人を除いていくことが、競争政策上望ましいと考えられる」との記載があります。
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