株式など投資の対価の種別を問わず、投資契約関連で問題となりがちな点を以下で解説していきます。
投資契約では出資先スタートアップに対して、一定の事項に表明保証することを求めることが多くあります※10。表明保証条項においては「何を表明保証の対象とするか」「表明保証に違反する条件」「表明保証に違反した場合の効果をいかに定めるか」が問題となります。
※10:なお、投資契約における表明保証事項は、(i)支配権獲得のためのM&Aと将来のスタートアップのEXITの余地を残すべくマイノリティ出資に留める投資契約とは異なる、(ii)投資契約はあくまでリスクマネーの拠出である、(iii)ステージが若いスタートアップに網羅的な表明保証を行わせることは難しく、投資家サイドが表明保証違反による補償請求をあまり期待していないなどの理由から、M&Aにおけるそれよりも緩やかになることが多いとの指摘(柴田堅太郎『中小企業買収の法務』(中央経済社、2018年)178頁)もある。
まず、「何を表明保証の対象とするか」ですが、多くの場合、以下のような内容が定められます※11。
※11:柴田堅太郎『中小企業買収の法務』(中央経済社、2018年)176頁。引用に当たり一部改変。
以上の内、知的財産権関連の「第三者の知的財産権への侵害(中略)が存在しないこと」について、私見では、これを表明保証の対象とすべきか否かは慎重に検討する必要があるものと考えます。すなわち、スタートアップのステージにもよるものの、リーンスタートアップを実践し、必要最小限度の機能でまずプロダクト/サービスをローンチし、その後のユーザーのフィードバックを受けてプロダクト/サービスを改良していく、というスタイルを採用する場合、最初のローンチ時と改良後のプロダクト/サービスの構成が大きく異なる可能性があります。
これを前提にすると、プロダクト/サービスのローンチ前後で、ステージの若いスタートアップが国内に限っても100万円以上かかることも珍しくはない第三者の特許権の侵害調査を実施することは、費用対効果の面で必ずしも合理的とはいえないでしょう。ローンチ時の構成だと第三者の知的財産権を侵害しないとしても、改良後のプロダクト/サービスの構成だと第三者の知的財産権を侵害する可能性があるためです。
それにもかかわらず、知的財産権関連の「第三者の知的財産権への侵害(中略)が存在しないこと」を表明保証の対象としてしまうと、(少なくともその時点で)第三者の知的財産権の侵害調査(FTO調査)を限られたリソースを活用して行うことが合理的と言いきれない場面でもその実施を強いることになりかねません。これは投資家、スタートアップの双方にとって望ましくないと言えます。そのため、(11)の知的財産権関連の「第三者の知的財産権の侵害(中略)が存在しないこと」については、その採否及び後述の表明保証に違反する条件を、スタートアップのステージや業界・ビジネスモデルを踏まえながら慎重に検討すべきです。
また、「法令を順守して経営していること」についても、スタートアップの業界やビジネスモデルによっては、その採否や後述の表明保証に違反する条件については慎重に検討する必要があります。スタートアップは新市場を開拓することが多く、当該市場における事業の実施の適法性が不透明な中、例えば、規制のサンドボックス制度を活用しつつ事業を進めていることがあります。投資家もこれを承知している場合もありますが、法令違反がないことの表明保証を求めながら、後に法令違反と判断された際に、「表明保証違反があった」とスタートアップにだけその責任を負わせることは、適切なリスク分配という観点からは良いといえないでしょう。
これらの表明保証の対象事項について、リソースも足りず、社歴も浅いスタートアップが全てを完全に保証することは困難ですので、(スタートアップ側の要請に応じて)若干の調整が入る場合があります。よくとられる調整手法としては、表明保証の対象事項を減らすなどですが、この他、例えば以下のものがあります※12。
※12:柴田堅太郎『中小企業買収の法務』(中央経済社、2018年)177頁。引用に当たり、一部改変。
次に、「表明保証に違反する条件」についてですが、上述のように、無制限に表明保証の対象事項とすると、適切なリスク分配という観点から不公平さを生んでしまう場合があります。そのため、一定の限定を付する調整が行われますが、例えば、「知る限り」「知り得る限り」などの限定はよく使われます(例:「経営株主の知る限り第三者の知的財産権の侵害は存在しない」)。
そして、「表明保証に違反した場合の効果」については、適切なリスク分配の観点から、表明保証違反の場合の補償請求金額に一定の上限を設ける、重大な表明保証違反のみを補償の対象とするなどの調整がなされることがあります。
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