共同実証実験にもさまざまなハードルがあった。従来人手で責任を持って稼働してきた化学プラントをAI制御による自動運転に切り替えるのは簡単なことではない。これらをクリアするために、横河電機ではAI制御の適用までに3つのステップを踏みながら進めたという。
1つ目のステップとしては、プラント設計情報からプラントモデルを作成し、プラントシミュレーターでFKDPPによりAI制御モデルを生成する。2つ目のステップでは、シミュレーター上でこれらのAI制御モデルの信頼性や妥当性を徹底的に評価した。過去の運転データを与えて最適な動作をするかどうかを現場オペレーターも含めて評価した。ここでは安定時と共に、異常時のデータを与えて最適な判断をするかどうかも確認したという。さらに、リアルタイム操業データを与えて、安定稼働ができるかどうかや、製品品質は許容範囲かどうかを確認した。そして、3つ目のステップとして、実プラントでの制御を行ったという。横河電機のプラント制御システム「CENTUM VP」と統合しプラント操業に組み込んだ。その際も各種安全機能で安全を確保する他、運用面でもAI異常時の対応など体制を整備したという。
小渕氏は「シミュレーターでの事前検証をフル活用したという点はもちろんだが、AIを運用で活用するためには、何よりも現場の納得感が重要だ。現場のオペレーターも含めた評価や体制作りなどのところに特に力を入れた。既にプラントでは自動制御技術が活用されている部分があり、その中でも必要となる責任の切り分け方などを参考にしながら、理解を得ながら体制を構築することで実運用に落とし込むことができた」とポイントについて語った。
今後に向けては「まずは化学プラントでのAI制御の実運用への道筋は見えてきたが、長期間使用する観点で、保守面でどういう課題が出てくるかを見極める必要がある」と小渕氏は述べる。FKDPPはロバスト性が高い点が特徴であるため、ある程度の変化には追随できるが、設備の経年劣化など前提が変化する中での効果の確認などを行っていくという。
また、将来的には人が担っている判断の領域でAIの活用を広げ、AI同士が相互に連携をしながら、複雑なプラント制御を高めていく世界を実現する考えだ。「今はどこを見て、何をするかという条件は人が与えている。こうした改善点の発見や、問題の分析、そして問題の解決などもAIで行えるようにしていく。改善ループをAIを通じて回すことができれば、自律的に改善が進む仕組みを作ることができる。また、これらと経営目標などを連動できれば、経営目標数値を決めれば、工場の操業を自動的に変えられるようになるかもしれない。そういう世界を目指す」と小渕氏は展望について語っている。
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