創業から2年目の2020年には、世界的なCOVID-19感染拡大の影響を真正面から受けた。
ロックダウンによる外出禁止令が発出され、フィリピンでの製造、販売が全くできない状況に陥ったのだ。失業率も上昇したことで治安が悪化、徳島氏は2020年4月に帰国し、約20人いる現地採用の従業員はテレワークによる在宅勤務に切り替えた。2020年6月には規制が緩和されたが、Instalimbの顧客層とも重なる基礎疾患を持つ人の外出は禁止されたままだった。
しかし、この逆境がInstalimbの生産技術開発をさらに加速させる。それまでの、ユーザーがInstalimbの拠点に訪問する形から、スタッフがユーザーのもとに訪問するスタイルに変更。納品するまでのやりとりはデータのみで完結できるようにした。
日本での研究開発も進めている。融資や国内の助成金、補助金、VC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達に奔走。1年以上は開発に専念できるだけの資金を確保した。資金面の問題をクリアしたInstalimbは生産技術とAI開発に集中し、リモートによる義足製造体制を確立した。自社開発の3Dプリンタによる製造も、これまでに蓄積したデータを活用することで十分な強度を確保できた。パラメーターの違いで強度は10倍の差が出るという。この成果を受けて2021年9月にさらなる資金調達を完了し、追加の補助金も確保、少なくとも2年以上は開発に集中できる体制が整った。
今後の課題は、マスカスタマイゼーション製品としての生産技術をいかに高めていくかだと徳島氏は分析する。AIも製造データの蓄積と分析も、その一環だ。
「生産技術者の募集をかけた際、『既存の生産技術のノウハウはそのまま使えないし、品質の担保が普及の鍵になる。どういったアルゴリズムで品質保証するか、チャレンジしたい方はいませんか』と投げ掛けました。0から1にするという仕事は生産技術では珍しいこともあり、パッションを持った方を採用することができました」(徳島氏)
日本国内での展開も視野に入れているが、まずは発展途上国で十分な実績を作らないことには参入障壁は崩せない。フィリピンの次に展開する先にはインド、中国を検討しているという。
「COVID-19の状況を見ながらにはなるが、まずインドに進出したい。インドでは貧困層に無償で義足を供給する取り組みがあるが、品質があまりにも悪く、30分以上続けて使用できないなどのケースも多いため、根本的な課題解決になっていない。われわれの義足はハイエンドな義足と、無料の義足の中間に位置するミドルレンジの義足として機能するはずです」(徳島氏)
途上国では脚を失う家族がいることで、世帯全体が大きな影響を受ける。同居する家族がフルタイムの仕事や学校に通えずに介護に追われる――。その結果、貧困の連鎖から抜け出せない状況に陥ってしまうのだ。そうした迷惑を家族に掛けたくないから、脚を切断せずに死を待つという、目を覆いたくなるような事実がある。
Instalimbは生産技術の力で、生きることを諦めた人に新しい選択肢を届けようとしている。
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