PTCジャパンはメディア向けラウンドテーブルを開催し、同社の産業向けAR(拡張現実)ソリューション「Vuforia Studio」が提供する空間コンピューティング「Area Targets(エリアターゲット)」の特長やその可能性について説明した。
PTCジャパンは2021年12月14日、メディア向けラウンドテーブルを開催し、同社の産業向けAR(拡張現実)ソリューション「Vuforia Studio」が提供する空間コンピューティング「Area Targets(エリアターゲット)」の特長やその可能性について説明した。
なお、エリアターゲットはARアプリケーション開発を支援する「Vuforia Engine」で提供されていた機能で、同年6月リリースのバージョン9.1.0からVuforia Studioで利用可能となっている。
まず、業務におけるAR技術の活用動向について、PTCジャパン 製品技術事業部 COE/製品戦略本部 シニアテクニカルスペシャリストの川崎貴章氏は「労働者人口の減少や感染症予防対策など、近年、現場作業者を取り巻く環境が大きく変化しており、新たな技術などを駆使したブレイクスルーが求められている。そうした中、現場業務を支援するソリューションとしてARの活用が進みつつある。また、現在ARのデータソースとなるIoT(モノのインターネット)の利用も盛況であることから、AR活用のさらなる伸びが期待できる」と語る。
現実空間にデジタル情報をオーバーラップして見せるAR技術だが、そのトリガーとしては、マーカーやQRコード、あるいは任意の平面を起点として利用するものなどが挙げられる。これらの手法であれば、例えばマーカーを製品パッケージやカタログ、ポスターなどにあらかじめ印刷しておくことで、製品購入前に外観デザインを確認したり、配置レイアウトを検討したりといった体験をARで提供することが可能となる。
こうした従来のAR利用のアプローチは日常生活において効果的といえるが、“業務におけるARの適用”を進める同社は、「(AR体験のトリガーとなる)ターゲットの種類をさらに拡張していく必要がある」(川崎氏)との考えを示す。
このような考えの基づき、Vuforiaが提供するのは「現物(モデル)」をターゲットにしたARと、「現場(エリア)」をターゲットにしたARだ。
現物(モデル)をターゲットにしたAR(モデルターゲット)では、3D CADで設計した3Dデータを基に対象物の形状を学習しておくことで、ARのシーンの中にその学習した形状が認識されたら、それにひも付くデジタル情報をAR空間に重ねて表示するといった利用が可能になる。例えば、自動車のエンジンルームのメンテナンスなどにおいて、エンジン形状を認識すると、作業対象の部品をハイライトして分かりやすく表示したり、IoTと連携して装置の稼働状況を確認したりなど、作業者の支援を的確に行うことができる。
一方、今回のメインテーマである、現場(エリア)をターゲットにしたAR(エリアターゲット)については、事前に対象となる現場(空間そのもの)を3Dスキャンするなどして学習しておくことで、作業者が現場に到着すると、自己位置を把握して、コンテキスト(例えば、現在位置やそこに関連する作業内容などの状況)に適したデジタル情報をAR空間に表示することが可能となる。現物(モデル)をターゲットとするARとの大きな違いは、モデルターゲットがエンジンや工作機械といったモデル単体を対象にした作業支援に適しているのに対して、エリアターゲットは、毎朝実施する設備の点検業務のように、工場内の複数の場所(装置)を移動しながら作業を進めるようなケースにおいて有効であるという点だ。
「これら2つのターゲットは、いずれも業務での利用を想定したものであり、利用者がターゲットの周囲を動き回ってもARはそれを正しく認識して、その場所に適したデジタル情報を正確に表示することができる」(川崎氏)
エリアターゲットを利用するためには、まず、現場空間を市販の3Dスキャナーでスキャンし、それを基にエリアターゲットデータセットと呼ばれる認識用データを作成する必要がある。そして、この認識用データを用いて、Vuforia StudioでARコンテンツを作成することにより、利用者は現場空間(エリア)を起点としたAR体験が可能となる。ちなみに、小規模なスペースであれば、LiDARスキャナー搭載のiOSデバイスとPTCが提供するスキャン用のiOSアプリ「Vuforia Area Target Creator」を用いることでエリアターゲットの認識用データを作成できる。
エリアターゲットであれば、現場空間における自分の位置を正しく把握できるため、今いる場所に適したデジタル情報をARで確認することができる。このように、Vuforiaが提供するエリアターゲットを用いることで、比較的容易に、空間コンピューティングが実現可能となる。
なお、エリアターゲットで対応可能な空間の規模は、最大約2万7900m2となる。データの扱いに関しては、工場などの機密性の高い空間を対象とする場合、データをPTCに提供することなくエリアターゲットを作成できる。また、データ利用については、オフライン状態でも作成したARコンテンツ内でエリアターゲットを利用することが可能である。
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