―― ライブと言えば米国はスポーツ大国で、あらゆるスポーツがライブで中継されていると思います。こういった全部クラウドに上げてしまうという方法論は、米国のニーズが高いんですか。
小貝 もともと米国の方は出口の整備がかなり進んでいて、CATVを含めいろんな多チャンネルサービスとかがもともとあった状況でした。OTT(Over The Top:通信事業者以外で動画配信などの大容量通信を行う事業者のこと)に出さなきゃと言っても、従来はCATVに流してたカレッジスポーツみたいなのがOTTに移行しつつありますが、クラウドを活用するのはまだこれからですね。
前川 私が話してるところは放送局が多いんですけども、そこをクラウドにしたいという意向は米国の方が強い感じがしてます。あと私の印象としては、ラテンアメリカは比較的クラウドに対する取り組みが早いと言う感じですね。
―― それはどういう背景があって、ということでしょうか。
前川 やっぱりコストですね。地方によっては電波ではアクセスしにくい場所があり、そういった観点からもおそらくクラウドっていうのがうまくはまってくると思います。
―― その点で欧州はどうでしょうか。あちらはあちらで越境してコンテンツを流したいという意向もあるんじゃないかと思うんですが。
小貝 M2 Liveの前身というわけではないんですけども、いわゆるクラウドスイッチングサービスでは、欧州でSaaS型で展開している「バーチャルプロダクション」というのがあります。こういう時代が来るだろうということを予見して、先に立ち上げたサービスがあって、欧州ではそれを展開しています。
欧州の方がIP化が進んでいるという事情もあります。1つの国の中で本社があって支局が幾つかあるっていう放送局が多いので、ネットワークで局間を結んで、映像信号のやりとりを実現する。そこは、ソニーが2020年9月に子会社化したNevionという会社のSDN(Software-Defined Networking)というネットワーク仮想化技術を使って、局内のLANの世界も局外のWANの世界も一元的に管理できるという状態にして、その中で自由に信号のやりとりができるところまで進んできていますね。
―― 一方の日本は、IP伝送までは来たものの、まだクラウドの活用には程遠い印象があります。この温度差って一体なんなのでしょうか。
小貝 国民性があるかなと思っています。やっぱり慎重なところはあるかなと。それこそわれわれは、2010年ぐらいからIPのお話はしていて、ようやく2015年ぐらいから本格化してきたんですけども、やはり最初は欧米のお客さまの導入がパパッと進んだ。そこから2〜3年遅れで日本で一気に増えたというのがあります。それだけではなく、過去のいわゆるVTRテープからディスク、メモリといったファイルベースへの移行もやっぱり日本はちょっと遅かったんで。
ただそこで、コロナ禍がきっかけになって、リモートの部分が非常にフォーカスされてきたと。それまで各クラウド事業者の方々もいろんな機能開発や映像制作業界への提案もされていたこともあって、一気にその不安感が払拭されたということがあるのかなと思っています。
―― 従来、スイッチャーがハードウェアベースで信号処理していた部分がGPUによる処理になってくると、ハードウェアであるが故の制限や常識みたいなものが関係なくなってきますよね。そうしたときに、ユーザーが扱っていく部分って、従来通りのハードウェアと同じUIがいいのか、それとも新しい考え方を導入したUIがいいのか、何でもできるが故に葛藤もあったんじゃないかと思いますが。
前川 非常にいい質問、と言うのも失礼なんですけど(一同笑)、葛藤というかいろいろな角度からの視点というのは常にあります。これまで使ってきた方が乗り換えるという意味では、既存の操作系っていうのをある程度意識した作り方がいい。
単純にバックグラウンドにレイヤーを重ねるというノンリニア編集系のやり方もあるんですけども、多分ライブオペレーション系にはM/Eライク(列ごとに違った映像を合成しておき、列を切り替えることでシーンチェンジする方式)で、加えてリソースのフレキシビリティを増やしていくっていうアプローチの方がいいかなと思っています。
改善の余地としてはかなりあるとは思うんですけども、まずはシンプルにスタートした上で、どこで使われるか、どういう要求があるか、というのを見極めながら、GUIも今後変えていきたいと思ってます。
染谷 ソフトウェアなのでいろんな考え方ができるんですけど、今はスタンダードに作っています。先ほどご紹介したバーチャルプロダクションというのは先進的なUIで作っておりまして、今回のM2 Liveを作るに当たり、それの真逆を作ってみようと。思いっきり現状のハードウェアに近づけてみたらどうなるんだろうと。
その前に「Anycast Touch」というものがありました。あれは結構チャレンジングなGUIをやっていたので、いろいろ試行錯誤しながら、今はオーソドックスなスタイルに戻したという感じです。
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