東芝が大規模で複雑なプラントに設置した数千点のセンサーから得た時系列データを基に、プラントの状態変化の中に埋もれた異常の兆候を早期検知できる異常予兆検知AIを開発。水処理試験設備の公開データセットであるWADIに対してこのAIを用いた異常検知を実施したところ、従来比で12%良好な世界トップレベルの検知性能が得られたという。
東芝は2021年12月7日、大規模で複雑なプラントに設置した数千点のセンサーから得た時系列データを基に、プラントの状態変化の中に埋もれた異常の兆候を早期検知できる異常予兆検知AIを開発したと発表した。水処理試験設備の公開データセットであるWADI(Water Distribution)に対してこのAIを用いた異常検知を実施したところ、従来技術と比べて12%良好な、世界トップレベルの検知性能が得られたという。また、東芝エネルギーシステムズ子会社のシグマパワー有明が運営する三川発電所(福岡県大牟田市)で同AIを用いた実証実験を進めており、併せて2021年度中をめどに発電プラント向けPoC(概念実証)用システムの提供準備を完了させる計画である。
開発した異常予兆検知AIは、東芝グループがプラントメーカーとして蓄積した知見が基になっている。発電や水処理などポンプと配管を主な構成要素とするプラントの主要信号は、運転操作や出力変動などに伴い多くのセンサーで同時に起きる比較的振幅が大きくて周期が緩やかな「大まかな変動」と、ポンプの振動や局所的な温度変化などに伴って少数のセンサーで同時に起きる比較的小さく速い「微小な変動」の2つに分けられる。
そこで、「大まかな変動」と「微小な変動」という異なる変動から得られる2種類の信号について、それぞれの変動特性に合わせて設計した2つの深層学習モデル(オートエンコーダー)で学習し、各モデルからの予測値を足し合わせる「2段階オートエンコーダー」を開発した。これによって、センサー値の正常状態の高精度な予測を実現した。
実際の水処理プラントをスケールダウンした公開データセットであるWADIは、122個のセンサーデータに対し15のシナリオで異常発生を起こすという内容になっている。2段階オートエンコーダーを用いた東芝の異常予兆検知AIをWADIに適用したところ、検知性能を示すF1スコアで0.777を記録した。これは、WADIを用いた検知性能で最も高い結果を出していた従来のAIと比べて12%向上している。この他、競合他社の異常予兆検知AIと比べた場合には、大量のセンサーの異常検知と状態変化時の異常検知を両立できている点で優れているという。
三川発電所では、開発した異常予兆検知AIを用いて大量のセンサーデータをオンライン監視することで、早期に異常を検知するという結果が確認できている。今後は、2021年度内をめどに発電プラント向けPoC用システムの提供準備を進め、他のさまざまなプラントでも性能実証を行っていくという。また、同AIを用いた異常予兆検知システムについても、IoT(モノのインターネット)サービスのポータル「Toshiba SPINEX Marketplace」での展開やオンプレミスでの提供をユーザーのニーズに応じて検討していくとしている。
なお、開発した異常予兆検知AIの技術詳細は、オンライン開催のデータマイニングに関する国際会議「ICDM2021 LITSA」で2021年12月7日に発表される予定だ。
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