また、あらゆる障害者が働きやすい環境を追求する中で、副次的に健常者に対しても効果を生むケースなども生まれている。
例えば、電源の生産ラインでは、製品を作り段ボールの箱を組み立て、箱に挿入するという作業を行っているが、段ボールがかさばるために、作業台の上に置いておくことができず、作業台の裏に流れてくる形となっていた。ただ、作業台の裏にある段ボールを作業台に持ってくるためには、作業者は立ち上がって段ボールを取るという作業を行う必要があるため、車いすの作業者には難しかった。そこで、スイッチを押せば段ボールを自動で取り出せる自動機を開発し、これを用いることで作業者が立ち上がることなく作業を行えるようにした。これにより車いす作業者でも問題なく作業を行えるようにできただけでなく、健常者の作業者にとっても立ったり座ったりがなくなり、身体的負荷を大きく下げることに成功した。
「こうした発想は、障害者としての気付きがあったからこそ生まれたものだ。健常者にとっては動作が当たり前のもので、そういう認識が壁になって思い付かない。車いす作業者の意見で初めて気付くことができた。結果としてその気付きによる改善が、健常者にもよい効果を生み出し、現場全体の価値を高めることができている。こうした気付きが重要だ」と三輪氏はその意義について語っている。
こうした数々の取り組みを支える治具だが、個々の作業工程にあった機械を外部から調達するのは難しい。そこで、オムロン京都太陽では、これらの治具やツールを「工作室」で内製している。「毎日のメンテナンスや細かい変化への対応なども自分たちで作っているので簡単に行える。またさまざまな治具製作のノウハウも蓄積を進められている」と三輪氏は述べる。
また、オムロンが提供するオムロンの現場データ活用サービス「i-BELT」を、設備の稼働監視と共に「人の働きやすさ」をモニタリングするツールとして活用。「i-BELT」では現場データのリアルタイム監視により、設備の遠隔監視や予兆保全などをサービスとして提供しているが、オムロン京都太陽ではこれらの設備の他、人作業の実績などをリアルタイムデータとして収集し「いつもと違う」を把握することで、人の働きにくさの要因などを捉えられるようにしている。
その他、3S(整理、整頓、清掃)推進のための習慣作りや、精神/発達障害者に向けた自己理解や相互理解の促進を図るコミュニケーションづくりなど、さまざまな取り組みを進めている。
これらのオムロン京都太陽での取り組みは、コロナ禍も含めて働き方が大きく変化する中で、製造現場の働き方改革の大きなヒントになるものだといえる。現状ではこれらの取り組みが「オムロンのソリューションにつながったものはない」(三輪氏)としているが、「オムロンとしても顧客企業の困りごとを捉え、それを解決するソリューション提案を強化している。オムロン京都太陽の取り組みは、こうした困りごとの把握と、解決の発想を生み出すという点や、顧客企業のコミュニケーション強化という点で貢献できると考えている」と三輪氏は語っている。
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