要素数が少なく、摩擦あり接触要素をなくし、線形問題としてモーダル解析が可能なモデルを考えてみます。いろいろなボルト締結部モデルの固有振動数が実験値と合わない理由は、図11に示すように板と板とが接触していないことが原因です。板と板とを結合させる方向で考えてみましょう。といっても、固着モデルは「危険側の見積もり」になってしまうので“全結合”はできません。締結後のボルト近傍の変形形状を図17に示します。ギューッとボルトが締め付けられていますが、ボルトから離れたところでは隙間ができています。
図18に板同士の接触面の圧力を示します。青色の部分は接触圧力が“ゼロ”で接触していません。水色から赤色で示した領域が接触しています。この接触領域だけ固着してはどうでしょうか。
図19は、接触領域だけ板Bを少し凸状にしたモデルです。凸部だけ板Aに接触するので、3D CADに付属している有限要素法ソフトは自動的に接触部だけ固着させます。このとき、接触判定値を少し厳しくしておく必要があります。そうしないと、凸の下側の面まで接触要素が設定されてしまいます。ここでは、モデルの形状を変えて凸部を作りましたが、3D CADの面分割機能を使えば凸部は必要ありません。このモデルでモーダル解析をしてみましょう。
図20に要素分割図を示します。固着部があり、固着部以外には隙間があります。今回は、六面体要素で要素分割するために板を領域分割しています。
図21にモーダル解析の結果を示します。
変形時のボルト近傍での板同士の密着が再現されています。固有振動数は333.9[Hz]と実測値より5.4[%]低い結果となり、実測値とおおむね一致しました。この部分固着モデルの結果についても先ほどの表1に記載してありますが、要素数が6752[個]とコンパクトな有限要素法モデルで、計算時間は8[s]でした。もちろん、線形問題なのでモーダル解析が使用できます。
このように、少しの手間と工夫で、ボルト締結部の特殊な振る舞いを再現できるのではないかと思います。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.