設計者向けの解析ソフトウェア(CAE)について、関係者たちが一堂に会してとことん討論します。さてあなたの使っているソフトウェアのベンダさんは、出てくるでしょうか。
今回は、設計者向けの解析ソフトウェア(CAE)を提供する側の方々に、お忙しい中お集まりいただき、「設計者向けの解析ソフトウェアの導入や、その教育ついて」をテーマに議論をしていただきました。
村田製作所の中で設計者とともにCAEのソルバ開発から携わってきたムラタソフトウェアの辻 剛士氏(「Femtet」:構造・熱・電磁界解析)。かつてはご自身もメーカーの製品設計者だったというオートデスクの笹谷 一志氏(「Autodesk Moldflow」:樹脂流動解析)。プレス発表でユーザー視点と開発視点からの濃い情報提供を十八番とするPTC ジャパンの芸林 盾氏(「Pro/ENGINEER Mechanica」:構造解析)、そして大手ベンダのエンジニアリングマネージャから、小さなベンダへ移籍して営業部長になられたCFdesignジャパンの張 明氏(「CFdesign」:流体解析)。*順序不同
それぞれのバックグラウンドや性格がさまざまだったこともあり、和やかに談笑が進む中、ところどころで弁に熱がこもりました。
さて、この議論の取りまとめにご協力いただいたのは、MONOistの連載でおなじみ、モノづくり系IT(構造解析&3次元CAD)一筋28年のキャドラボの栗崎 彰氏。同氏の長年の経験からくる鋭く強い質問(誘導尋問!?)で、議論にスパイスを効かせてくださいました。
本稿では、その議論の内容の一部をお届けしていきます。
――「設計における解析ソフトは、あくまで設計の方向性決めのツールとして使うのがベスト。1+1と打てば、2とはじかれる世界をそこに求めるのは現実的ではない」と、ベンダさんの説明会や事例講演などを通して、記者自身もよくそのように聞いてきました。ただ栗崎氏はこの考え方に、疑問を投げかけていきます。
栗崎 「リブはこの位置よりこの位置がいい」「穴はこの位置よりこの位置がいい」と結果からは、応力が均等に分布するということは分かります。ただ、それだけではその部品が壊れるか壊れないかまでは分かりませんよね? 本当にそれでいいのでしょうか。
張 私の経験からいえば、大半のお客さんは、相対評価を望まれているケースが多いと感じていました。絶対と相対をどう定義するかをまずユーザーさんがはっきりとさせたうえ、ツールも一定の信頼性があることを前提にして、相対的に比較してほしいと思います。
笹谷 構造や熱などと比べ、樹脂流動の世界では絶対評価がすごくしやすいですね。遅かれ早かれ成形品ができますから。例えば、サンプル品はショート*充填(じゅうてん)不良 をしていたけれど、解析では充填が正常にできていた。そして、「なんだ、現実と合わないじゃないか!」、という。また、「現実は10mm反っていても、解析だと1mm だったから、僕はOKを出したんだ!CAEは使えないな!」とか。……そんな具合に、後工程の現場では実成形品を基準に評価しています。
後工程だけではなく、もっと早い段階(設計)で樹脂流動解析を使おうとすれば、成形条件(解析条件)の値が1つ変わるだけで、いくらでも解析結果が変わってしまい、妥当な値を判断することが難しいこともあります。反りが起こる原理まで設計者が熟知しなさい、というのはさすがに無理です。ただ、設計品質を設計者自身が高めていくことができるよう、解析ツールがその手助けになればいいと考えています。
辻 相対評価でいい人とそうでない人がいると思います。専門家のツールなら、非線形解析の精度などが重要になります。設計者のツールなら、そこまではいらないけれど、実際の設計の方向決めまでができればよい。つまり相対的評価で十分ではないかと私は思います。
芸林 「相対評価は設計の早い段階でやる。設計の早い段階では、モデルがまだクタクタ(検討が不完全)だから絶対評価は無理だし」ということでは? 「リブはどの位置がいい?」の答えは、結果的に間違えている可能性があるけれども、設計の過程においての解析としては、相対評価でいいはずです。
栗崎 つまり 設計のフェーズ(前工程)で相対評価を活用しようということですね。それはよく分かります。しかし相対評価で使ってほしいなら、もういっそ、結果表示から数値はなくして、コンター図だけでいいんじゃないのかと思います。「設計者モード」で。そうでないと、お客さんが迷ってしまうだけではないかと。
笹谷 実は、弊社製品(「Autodesk Moldflow Advisor」)にはそのような機能があるのです。反りの結果が、コンター図だけ表示され、絶対値は表示されません。ただ……そこでよくお客さんから返ってくる答えが 「数字も見えるようにしてください」なんです。
栗崎 うーん……そうですか。相対評価に関しては、私自身、いまいち釈然としないのです。
芸林 それは、設計者も絶対評価をするべき……と?
栗崎 そうじゃないんですよ。ただ、(現実からの誤差が)10パーセント以内とか、 3パーセント以内とか、それぐらいの絶対評価はできるツールであってほしい、あるいは「そうできる使い方」を教えてほしいという人が多い、と私は思っているんです。
辻 3パーセント以内、10パーセント以内での評価とおっしゃいましたが、それは絶対評価になるのですか? 例えば、答えが「3」だとしましょう……宇宙の真理で、絶対的に「3」ですよ!(笑)それに対し、30や300など、明らかに変な答えが出てきたら、相対評価といっても、使えないレベルではないかと。3パーセントを超えたら相対、それ以内になるなら絶対、という定義ならば、私どものソフトでもある程度、絶対値に近いところまでいけますよ。300とか30とかだったら、みんな買おうと思わないでしょうし。
栗崎 そうですよね! そういう言葉を聞きたかったんです。私としては、設計者は結局、絶対値に近いところでの評価を望んでいるのは、間違いないかなぁと思うのです。
お客さんは、「穴の位置どこ」「リブの位置や厚さはどうしたらいいか」、と判断をしたいからツールを買いたいわけではないと思うんです。もちろん、それも一部にはあるだろうけれど、やはり、応力がどれぐらい出るのかも知りたいのではないかと。少なくとも、私の知っている範囲では 大半のユーザーさんは「応力は何MPaになるか」という話になることが多いのですよ……。
最近は、こんな話もあるのです。私のお客さんであるカーオーディオメーカーさんは、重さは従来モデルの半分、使用電力も半分、しかし性能はそのままという極限設計を求められていらっしゃるそうです。これは、「リブの位置をどうしようか」で解決する世界ではありません。そのような世界では、絶対値に近い評価を目指さないといけないわけです。
つまりそろそろ設計者向けのCAEも、さらにステージアップする時期じゃないかと。「相対評価で、まず使いましょう」という考えも、私自身もよく分かるし、現場の方々と接していて実際に感じることでもあります。“絶対”という言い方がそもそもよくないかもしれないのですが……、ちゃんとした答えが出るツールの仕組みなり、方法論なり、教育なりがそろそろ必要ではないかと思います。
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