MathWorksはモデルべース開発環境「MATLAB/Simulink」のユーザーであるトヨタ自動車が、量産開発に適用しているバージョンを「R2015a」から「R2021a」に移行すると発表。トヨタ自動車が、MATLAB/Simulinkの量産開発適用バージョンを変更するのは、2015年10月に「R2010b」からR2015aに移行して以来で、約6年ぶりとなる。
MathWorksは2021年10月6日、同社のモデルべース開発環境「MATLAB/Simulink」のユーザーであるトヨタ自動車が、量産開発に適用しているバージョンを「R2015a」から「R2021a」に移行すると発表した。トヨタ自動車が、MATLAB/Simulinkの量産開発適用バージョンを変更するのは、2015年10月に「R2010b」からR2015aに移行して以来で、約6年ぶりとなる。
これまでトヨタ自動車は、ECU(電子制御ユニット)の量産ソフトウェアの開発において、MATLAB/Simulinkを用いたモデリングシミュレーションや制御モデルからのCコード自動生成に利用してきた。一方、モデルベース開発の普及に伴い、R2015aで量産開発をしている中で大まかに分けて3つのの課題が浮上してきたという。
1つ目は、検証工程や工程間をつなぐ際に手作業が発生していることだ。同社は、各工程にモデルベース開発を取り入れているものの、これらを一気通貫でつなげた自動化を実現することが急務になっている。2つ目は、運用しているモデル資産の増大である。これにより、MATLAB/Simulinkのバージョンアップ時にかかるモデルやツールの検証工数も増大してしまう。3つ目は、6年前に導入したR2015aのバージョンが古いことだ。自動車開発におけるソフトウェア開発の比重は急激に大きくなってきており、R2015aのように古いバージョンを使用し続けると最新の技術を迅速に取り入れることが難しくなり、開発競争力にも影響を及ぼす。
そこでトヨタ自動車は、今後MATLAB/Simulinkのバージョンアップを計画的に実施するためのスキームの確立をMathWorksと共同で進めることを決めた。今回のR2021aから、今後は従来よりも短期間かつ検証工数を減らしてバージョンアップを継続する体制を整える。
今回の体制整備では、Simulinkモデルのガイドラインを大幅に見直すことによる将来のMATLAB/Simulinkバージョンアップ時の機能拡張への対応、従来使用してきたトヨタ自動車が独自にカスタマイズした機能の大幅な削減と標準機能の最大限の活用、R2021aで大きく進化した「Simulink Design Verifier」などの設計検証製品を活用した、Simulinkモデルと「Embedded Coder」で生成したコードの検証の自動化推進などを行う方針だ。
トヨタ自動車 パワトレ電子システム開発部部長の森英男氏は「市場ニーズの多様化、環境・安全にかかわる規制強化、先進技術の高度化、モビリティビジネスの多様化などが複雑に絡み合い、自動車産業そのものが大きな変革の時期を迎えている。従来以上に速いスピードで開発を進め、高品質を維持することが求められており、これを実現するためには、より開発周期を短く、頻繁に機能を高められる制御開発をする必要があり、MATLAB、Simulinkはこの中核を担っている。R2021a採用を機に、既存のモデル資産を有効活用しながらも、将来のMATLABバージョンアップコストを限りなく抑えつつ、モデルベース開発の各工程を一気通貫で自動化するフェーズに移行していく。MathWorksの協力により、商品力のある自動車を短期間で開発でき、市場に投入していけることを期待している」とコメントしている。
なお、これまでトヨタ自動車によるMATLAB/Simulinkのバージョンアップの発表は、2011年6月、2015年10月ともデンソーと共同で行っていたが、今回はトヨタ自動車単独での発表となっている。
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