日本の製造業の現状とその打開策【前編】アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(11)(3/4 ページ)

» 2021年09月27日 09時30分 公開
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モノづくりに対する日本のエンジニアの姿勢

 日本のモノづくりは、「過剰品質」といわれることがある。それによって、設計期間が長くなり、新技術を搭載した製品が市場に出るのが遅くなり、製品コストも高くなる。挙句の果てに、製品化のスピードとコストに勝る中国に市場が奪われていく……という話だ。

 しかし、筆者はそれを大きな問題とは考えていない。その理由は、その“品質の優位性が日本のモノづくりの優位性”であるからだ。スピードとコストで勝負をして、中国やその他のアジア諸国と同じ土俵に上がっては勝ち目がない。かつて、テレビ事業で中国にコストで勝負を挑んだ日本の家電メーカーの二の舞になってはならないのだ。

 品質の優位性の中でも「信頼性」の高さ、つまり「壊れにくい」というのは日本が世界に誇るべきポイントだ。冒頭でもお伝えした通り、設計過程での検証を確実に行い、次のステップに進んでいくという日本の堅実なモノづくりが、その実現を支えている。特に、JIS規格がなく、カタログにも記載されていない内容に対する品質の高さが挙げられる。JIS規格にあり、カタログに記載される信頼性とは防水規格などで、カタログに記載されない信頼性とはハンディー製品の落下規格などがある。つまり、規格として公に定められておらず、カタログにもアピールしていない、日本のエンジニアの品質に対するこだわりが作っている信頼性である。分かりやすいものでは、PCのヒンジ開閉の耐久性やキーボードのキーの耐久性などがある。日本の自動車が何年乗っても壊れにくく、外車と比較して評価されているのはその典型である。

 筆者は、この“日本の品質の優位性”を中国製品などと比較して、「過剰品質」といってはならないと考える。日本は、日本の得意分野で勝負すべきである。

Appleの品質へのこだわりが生み出す優位性

 図4は、「iPhone」の側面にあるボタンだ。ボタンと本体の隙間がほとんどないことが分かる。

「iPhone」の側面のボタンと本体は隙間がほとんどない 図4 「iPhone」の側面のボタンと本体は隙間がほとんどない[クリックで拡大] 出所:Apple

 身近にある家電製品などを眺めてみると分かると思うが、一般的にボタンの周囲には0.2mm以上の隙間があり、ボタンを爪で片側に寄せてみると0.5mmくらいの隙間が見える。また、ボタンがわずかに動く感触もある。

 機能的に問題はなくても、部品のバラツキでボタンが片側に寄ってしまっていると見た目が悪く、設計者の体裁に対するこだわりが全く感じられない製品になってしまう(図5)。海外で作った安物の製品にはこれが多く見られるが、図4に示した通り、iPhoneはボタンの隙間を極限まで狭くして、これらの体裁の見栄えと感触の悪さを解消している。ここからもアップルの体裁品質に対するこだわりが見て取れる。

片側に寄り、見た目の悪いボタン 図5 片側に寄り、見た目の悪いボタンの例[クリックで拡大]

 iPhoneは、このような細かいところに異常なこだわりを持っている製品である。最上位モデルの製品価格は10万円超えとなり、従来の携帯電話端末と比較して高価であるが、そのこだわりが市場で評価されているからこそ、アップル製品が存続し続けているのである。ちなみに、ボタンの隙間はアップルの品質へのこだわりの一例であり、このようなこだわりがソフトウェアを含めた随所にも見られる。これが、他の追随を許さないアップルの優位性であると筆者は考える。

 そして、中国でもそれをまねてスマートフォンを製品化している。つまり、品質が良い製品はどこの国でも好まれるのである。だだし、“コスト度外視”というわけにはいかない。ちなみに、このボタンの隙間のことを筆者の友人に話しても、気付いている人はいない。

昨今の日本の品質問題

 昨今、神戸製鋼所や三菱電機など、日本を代表する企業による「品質問題」の話題が目立つ。記事によっては「品質疑惑」と記載されていることもあるが、これらのほとんどの内容はコンプライアンス違反であり、品質問題ではない。国や自社で定めた品質管理のルールにのっとって業務が行われていなかったり、認証取得の申請が偽装されていたりする問題である。

 こうした記事やその見出しを読んで、「日本のエンジニアのスキルが低下してきている」と勘違いしている人も多くいるが、古い企業体質が悪影響を及ぼしたコンプライアンス違反であることを、念のためここにお伝えする。

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