日本の製造業の現状とその打開策【前編】アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(11)(2/4 ページ)

» 2021年09月27日 09時30分 公開
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足りない日本のエンジニア

 日本のエンジニアの数は、就労人口6000万人の3.8%に当たる230万人といわれている。一方、中国は1000万人だ(エンジニアに製造ラインの作業者は含まない)。国の技術を引っ張っていくエンジニアは多ければよいというものではないが、他国と比較して日本のエンジニア数が少ないのは気になるところだ。人数が多ければ多いほど、新しい発想が多く生まれるという考え方もできるからだ。

 この考え方に当てはめるとすると、中国は日本の4倍のアイデア創出が可能であるため、日本のエンジニアのアイデアは、中国のエンジニア4人分のアイデアに対して、技術的にも質的にも勝っている必要がある

 また、中国には米国で技術を習得した「海亀(うみがめ)族」と呼ばれる人や、ヘッドハンティングされた日本の大手メーカーの優秀な人材から技術を習得したエンジニアも多くいるため、日本のエンジニアは厳しい戦いを強いられているといえる。

 “人口の差”によるエンジニア数の違いは仕方のないところだが、日本の技術力を強化するために改善すべき点は多い。

 日本は終身雇用制や役職定年制のため、第一線から離れたスキルの高いエンジニアが閑職(かんしょく)に回され、社内で十分に活用されていない現状がある。さらに、待遇の悪さから退職し、自分のスキルを活用できない異業種に就いたり、中国に流出したりしてしまっている。社内の人材流動性を向上させたり、若手社員の教育に回ってもらったりして、人材を有効に活用すべきである。これは日本のメンバーシップ制の雇用形態も関係しているため、ジョブ制への移行を検討する必要がある。また、欧米と比較して日本のエンジニアの給与が低いことも、日本人のエンジニア離れとエンジニアの海外流出につながっているため、その対策も必要だ。

ソフトウェアエンジニアの立場が弱い日本

 現在、IT関係のソフトウェアエンジニアの人材募集が多く、またその育成も盛んである。しかし、日本のソフトウェアエンジニアの社会的な立場は弱い

 日本の戦後はモノづくりが躍進し、ハードウェア中心の製品が世界を席巻してきた。洗濯機、テレビ、時計、そして自動車などである。よって、モノづくり企業の中の組織は、電気や機構のハードウェア設計者が主導権を握っており、ソフトウェアは外注もしくは社内のソフトウェア部門に委託する構図になっている。

 実際、製品の主導権はハードウェアエンジニアが握り、ソフトウェアエンジニアはハードウェアエンジニアからの要求仕様書によって開発を依頼されるという、“主導権のない受諾業務”を行っているケースが多く見られる。それ故、社内の組織的な立場もあくまでハードウェアエンジニアが中心で、ソフトウェアエンジニアはそれをサポートする関連部署的な立場となっていることが多い。

仕事を受注するソフトウェアエンジニアは企業内の組織的な立場も弱い 図3 仕事を受注するソフトウェアエンジニアは企業内の組織的な立場も弱い[クリックで拡大]

 しかし、昨今はハードウェアの技術が高止まりし、“ソフトウェアで製品の差別化を図る時代”になってきた。ここでの「高止まり」には2つの意味がある。

 1つは、スマートフォンでも十分に満足できる画質でカメラ撮影ができるように、コンシューマ製品の技術レベルが業務用に近くなってきたという意味だ。もう1つは、これ以上高い技術レベルになっても、人間がその違いを判別できなくなってきているという意味である。テレビをイメージすると分かりやすい。例えば、テレビが8Kから16Kになったとしても、8Kの時点で(画面にかなり近づいても)その画素を肉眼で認識することができないため、将来16Kにグレードアップしても人間の目ではその違いを判別することが難しいということだ。ちなみに、筆者の周りには、2Kと4Kの違いも判別できない人はたくさんいる。

 スティーブ・ジョブス氏はApple(アップル)の創業時に「アップルはソフトウェアを売る会社だ」と公言していた。このとき、既にジョブズ氏はハードウェアはいずれ高止まりして、ソフトウェアで差別化を図る時代が来ることを見通していたのかもしれない。

 現在、さらにこれが発展して「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「『モノ』から『コト』へ」「エコシステム」の中に組み込まれたモノづくりの時代に入ってきている。それぞれの意味は違うが、目指す思想は似通っている。これに関しては次回お伝えするが、これらの推進にはソフトウェアエンジニアの活躍が必須である。今までのような受諾の姿勢であってはならず、ソフトウェアエンジニアが自ら主導権を握って、ハードウェアエンジニアを引っ張っていく時代が来ているのである。

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