取引事実を公表したがるスタートアップ、どんなNDAを結ぶべきなのかスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(2)(4/4 ページ)

» 2021年09月14日 09時00分 公開
[山本飛翔MONOist]
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(3)秘密情報から除かれるもの

 仮に秘密情報の定義に当てはまっても、以下に定めるものは秘密情報から除いて規定することが一般的です 。

  1. 開示などを受けたときに既に保有していた情報
  2. 開示などを受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
  3. 開示などを受けた後、相手方から開示等を受けた情報に関係なく独自に取得し、または創出した情報
  4. 開示などを受けたときに既に公知であった情報
  5. 開示などを受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

 この条項との関係で重要な点は、契約締結前に既に自社が保有していた情報が「開示などを受けたときに既に保有していた情報」だと立証できるかという点です。技術や情報のコンタミネーションの発生を避けるためにも、タイムスタンプ※6や公証制度※7を活用して、秘密保持契約締結前に自社が対象となる情報を保有していたという証拠を残すことが望ましいでしょう。また、かかるリスクを回避するため、特に重要な技術情報かつ、それが特許出願に馴染む技術情報であれば、契約締結以前に特許出願を済ませておく方が良いと言えます。

※6:電子データに時刻情報を付与することにより、その時刻にそのデータが存在し(日付証明)、またその時刻から、検証した時刻までの間にその電子情報が変更・改ざんされていないこと(非改ざん証明)を証明するための民間のサービス。一般財団法人日本データ通信協会が認定する時刻配信業務認定事業者が時刻を配信し、この配信された時刻に基づいて、同協会が認定する時刻認証業務認定事業者がタイムスタンプの発行サービスを行っている。

※7:公証人が、私署証書(私人、個人または会社やその他の法人による署名などのある私文書)に確定日付を付与したり、これを認証したり、公正証書を作成したりすることで、法律関係や事実の明確化、ないし、文書の証拠力の確保を図り、私人の法律的地位の安定や紛争の予防を図ろうとするもの。特に事実実験公正証書は、公証人が実験、すなわち五感の作用で直接体験した事実に基づいて作成する公正証書で(公証人法35条)、証拠力も高く、有効に活用する余地も大きいだろう。

終わりに

 今回は、スタートアップとのオープンイノベーションに関するNDA締結時の留意点の一部をご紹介しました。次回は引き続き事業連携指針を踏まえつつ、スタートアップとのオープンイノベーションにおけるNDAにおける留意点の後半をご紹介していければと思います。

 ご質問やご意見などございましたら、下記欄に記載したいずれかの連絡先からお気軽にご連絡ください。なお、本連載のテーマと関連する、拙著『オープンイノベーションの知財・法務』が2021年9月25日に発売予定です。

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筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

【略歴】

2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了

2016年 中村合同特許法律事務所入所

2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)

2019年 神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター(現任)

2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)

2020年 特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞

2020年 経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー

2020年 スタートアップ支援協会顧問就任(現任)

2020年 愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師

2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)

【主な著書・論文】

「スタートアップ企業との協業における契約交渉」(レクシスネクシス・ジャパン、2018年)

『スタートアップの知財戦略』(単著)(勁草書房、2020年)

「オープンイノベーション契約の実務ポイント(前・後編)」(中央経済社、2020年)

「公取委・経産省公表の『指針』を踏まえたスタートアップとの事業連携における各種契約上の留意事項」(中央経済社、2021年)


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