そして最後に、ISTが2020年末に発表した新会社「Our stars」についても触れておきたい。この新会社は、ISTが100%子会社として設立。手掛けるのは衛星ビジネスだという。同じ宇宙分野とはいえ、ロケットと衛星では性質が大きく異なる。なぜロケット企業が衛星事業に参入するのか。なぜISTではなく、新しい会社を作るのか。
堀江氏は、その狙いを「収益化しやすいビジネスを切り出した方が、資金調達しやすいからだ」と述べる。
ロケット開発はある意味終わりのない事業である。たとえZEROが完成しても、それで開発が終わるわけではなく、打ち上げで収益を上げつつ、それを次の大型ロケットの開発に注ぎ込むことになる。開発資金はどんどん巨額になるのに、いつ回収できるのかも分からないので、長い目で見てくれる投資家しか集まらないという問題がある。
それに対し衛星事業は、より短期間で、ビジネスとしての収益が見込める。衛星事業のビジネスモデルに説得力があれば、もっと一般の投資家からの資金調達もやりやすいだろう。衛星事業で収益を上げられるようになれば、それをロケット開発に回せるし、衛星をZEROで打ち上げれば、打ち上げ料金という形で支援できる。
実績のない新型ロケットは、どうしても顧客を得にくい。しかし顧客が付いてくれなければ実績も増えない。悪循環だ。米国などは、政府が積極的に初期の顧客となって支援するのだが、日本はそのあたりが十分ではない。だがOur starsがあれば、自らニーズを作り出すことができるというメリットがあるわけだ。
なお新会社が計画している衛星事業は、以下の3つ。分野としては、通信、地球観測、宇宙実験という定番ながら、その内容はかなりチャレンジングだ。
これらのうち(3)は、衛星内で宇宙実験を行い、回収しようというもの。MOMO6号機では、初めて海上で回収に成功しており、これはその第一歩といえる。宇宙実験には手堅いニーズがあると考えられるが、国際宇宙ステーションのような有人施設ではなく無人機なので、安全上難しかったような実験でもやりやすいだろう。
(2)は、150〜200kmという低高度を飛行することで、超小型衛星でも高分解能の撮影を可能とするものだ。衛星は一般的に高度500km以上を飛行することが多い。高度が低いと、大気抵抗によりすぐ落下してしまうので、燃費の良いエンジンを噴射して、速度が低下しないようにする必要がある。
そして(1)は、ピンポン球サイズの超々小型衛星を大量に打ち上げ、編隊飛行させることで宇宙空間に巨大なアンテナを実現しようというものだ。編隊飛行のために、1つ1つの衛星には電磁石を搭載する計画だが、まだ世界で実用化した例はなく、まずは数機レベルの軌道上実証から行う必要があるだろう。
こんなにチャレンジングなのはいかにもISTらしいといえるが、どこまで実現できるのかは正直なところ未知数。今後、ZEROの進捗状況をチェックしつつ、Our starsの動向についても注目していきたい。
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