ISTにとって、収益の柱であるMOMOの打ち上げを止めてまで全面改良するのは、「経営的には結構厳しい判断」(同社ファウンダーの堀江貴文氏)で、乾坤一擲(けんこんいってき)ともいえる大きな賭けだった。しかし、同社はこの賭けに勝った。v1の2機が連続成功したことで、信頼性の向上を証明、今後の打ち上げ受注や資金調達には大きな追い風となるだろう。
ただし、7号機は約99km、6号機は約92kmと、ともに速報値ではあるが、高度が100kmに届かなかったのは少し気になる点かもしれない(“MOMO”という名前には、百=100kmという意味もある)。
一般的に“宇宙”といわれることが多いのは高度100km以上だ。これは国際航空連盟(FAI)の定義によるのだが、米国連邦航空局(FAA)などは50マイル(約80km)以上を宇宙としており、MOMO v1と同時期に当たる2021年7月12日に初フライトを行ったヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)の民間宇宙旅行も、この米国基準を採用している。では、100kmと50マイルは、どちらが宇宙だといえるのだろうか。
じつは、100kmでも80kmでも、物理的にはそれほど大きな違いはない。航空機が飛べるほどの空気はないし、かといって全くの真空でもない。空間のどこかに明確な境界があるわけではなく、変化は常に連続的。この数字には定義以上の意味はなく、地球と宇宙の境界はじつに曖昧だ。
「宇宙到達といえるのか」という点に議論はあるかもしれないが、あまり実質的な意味はない。特に、今回の2機はミッション上、100kmを超える必要があったわけではないので、少なくとも打ち上げが成功であることは間違いない。
しかし今後、例えば電離層の科学観測などで、もっと高いところまで行って欲しいというニーズが出てくる可能性はある。この点について、IST 代表取締役社長の稲川貴大氏は「すぐにできる細かな改良はいくつかある」としつつ、具体的なニーズが出てきた段階で改良計画を考えたいという意向を示した。
とにかく、これでMOMOを安定して運用できるめどは立った。今までは、v1の開発にもある程度リソースを割く必要があったのだが、この成功によって、その大部分をZEROに投入、開発を加速化できる体制が整った。
超小型衛星の打ち上げは、今後、さらなる拡大が期待されている。各国のロケットベンチャーによる競争も熾烈であり、少しでも早く市場に参入しなければならない。同社にとっても、本命はあくまでも衛星打ち上げ市場。2023年の初フライトを目指すためには、今回失敗するわけにはいかなかった。そういう意味で、v1の成功は極めて大きかった。
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