トルク係数が求まっているので、M10の場合の締め付けトルクと軸力の関係を図9に示します。グラフの傾きは「1/(呼び径×トルク係数)」です。締め付けトルクを被締結体(ないしはナット)の材質ごとに別々に決めるのではなく、いろいろな材質の被締結体に対応できるようにするために、摩擦係数のばらつき(0.10〜0.26)も考慮する必要があります。また、締め付けトルクがTmin〜Tmaxまでばらつくとすると、軸力は図9の着色した範囲内(薄い水色の範囲内)でばらつくことになります。締め付け係数Qは通常1.4ですが、今回は2以上になってしまいました。
締め付けトルクは相当応力が最も大きくなる条件、つまり軸力が最も大きい条件で決めるべきなので、図7のA点となります。式4によるとボルト軸力計算式の分母に摩擦係数があるので、摩擦係数はばらつきの中の最小値を選択することになり、摩擦係数として0.10[-]を採用することにします。A2-70のステンレスボルトと強度区分12.9のボルトについて、Excelのゴールシークを使って降伏応力比がちょうど70%になるような締め付けトルクを求めました。これが締め付けトルクとなり表4に示した値となります。
T系列(参考文献[4])は強度区分4.6〜6.8のボルトやステンレスボルトに対する締め付けトルクです。2.4T系列は強度区分10.9〜12.9のボルトに対する締め付けトルクです。ここで計算した締め付けトルクとT系列、2.4T系列との比較を表5に示します。両者の比は95〜105%の間に入り、ほぼ一致しています。つまり、T系列や2.4T系列は、締め付けたときの降伏応力比が76〜84%になるような締め付けトルクということになります。これで冒頭で述べた「締め付けトルクは?」の問いに答えられると思います。
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