“目標コスト”に関しては連載第3回で詳しく解説してあるので、ここでは簡単にお伝えする。設計を始める前の設計構想の段階では、製品の構成とその構成部品のイラストを描く必要がある。目的は、各部品の大まかな部品形状とサイズ、材質、員数、配置、勘合方法などを、3Dデータを描く前に決めておくためだ。イラストが苦手な人をよく見掛けるが、機構設計者であれば設計過程においても、部品メーカーとのコミュニケーションなどでイラストを描いて説明する機会は多いので、描けることが望ましい。言葉の通じにくい海外で仕事をする場合はなおさらだ。苦手であれば、ぜひ練習しておきたい。
このイラストがあれば、部品コストはほぼ推測できる。1つの方法は、過去の類似部品から類推するやり方だ。生産個数が大きく違う場合は、これも計算に入れる必要がある。購買部の人や職場の先輩からアドバイスをもらうこともできる。より確実なのは、なじみの部品メーカーにそのイラストを見せて相談することだ。回数を重ねれば、イラストで部品コストの見当を付けるのはそう難しいことではないため、自分で見積もりをする習慣を付けておこう。
製品の目標コストは、企画の段階で提示されている必要がある。目標コストのない製品はあり得ない。製品を他社より先んじて市場に出すことが目的であるような製品は、利益を出す必要がない場合もあるが、そのようなケースにおいても目標コストは決めておかなければならない。
設計者は、企画の目標コストに合致できるように、イラストを描く。例えば、100円のボールペンもあれば3000円のボールペンもあるように、製品コストは設計方法によっていかようにもなる。つまり、目標コストも設計要素の一部といえ、目標コストのない製品はあり得ないということだ。しかし、いくら設計に工夫を凝らしても企画の目標コストに合致できなければ、企画の目標コストの修正が必要になる。
これに関しても、連載第3回で詳しくお伝えしてあるので、ここでは簡単にお伝えする。設計過程で試作は何回かあり、どんなに簡単な製品でも最低2回は試作を行うと考える。「手作り試作」と、金型などで部品を作製し量産と同等部品を使用した 「量産試作」の2回である。難易度の高い製品になれば、それぞれを複数回繰り返すこともある。試作では部品発注のため、その都度3Dデータや2Dデータを作成するので、そのデータを用いて部品メーカーに見積もりを依頼する。その見積額が、最初に決めた目標コストをオーバーしないように管理していくのである。
しかし、ここで注意が必要だ。例えば、印刷のある部品があった場合、設計の初期段階ではまだ最終的な印刷内容とサイズ、色数が決まっていないため、その試作品の2Dデータには印刷仕様を記載していないことがある。これで見積もりを依頼すると、もちろんその印刷代は部品コストに含まれてこないのだ。それでは、最終の製品コストを計算できないため、2Dデータには仮の印刷内容を記載して見積もりを依頼する必要がある。
設計を行うメーカーは相見積もりを多く取るため、部品メーカーでは見積もり作業が大きな負担になっている現状がある。部品メーカーは発注が来ない見積もり作業はしたくないのだ。よって、設計者は相見積もりによってなるべく早い段階で量産する部品メーカーを選定し、その後は、量産部品を発注することを前提として、部品メーカーにコスト調整のアドバイスをもらいながら見積もりを依頼するのがよい。相見積もりは部品コストの比較なので、初期段階の図面によっても部品メーカーを選定することは可能だ。
コスト管理で大切なのは、“コストは成り行きであってはならない”ということである。目標コストを決めた後は、試作でコスト見積もりとコスト調整を行い、目標コストに収まるようにコスト管理していくのだ。
これに関しては連載第7回でかなり詳しく解説してあるため、ここでは重要なポイントに絞ってお伝えする。
まずは、見積もり依頼においては、見積もり条件(個数、生産期間など)を明確に提示することが大切である。そして、見積もり結果は見積明細書に記載してもらうことを忘れてはならない。見積明細書は部品メーカーとの信頼関係構築のためにも必要である。見積もり依頼時にMOQ(最低発注数量)や金型の取り数など、お互いに話し合いながら取り決める事項があることも忘れてはならない。また、価格の提示条件(海外では通貨単位など)の指定も忘れてはならない。
見積明細書を受け取ったら、後はその確認である。見積明細書の中に記載されているたくさんの数値の確認だ。中国などに見積もりを依頼すると、コミュニケーションエラーによって、こちらから提示した見積もり条件や話し合いによる取り決め事項、価格の提示条件と違って見積明細書が書かれている場合が多くあるので、念入りに確認したい。
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