スマート化で露呈する工場のサイバー攻撃への弱さ、安定稼働を守るための考え方:いまさら聞けないスマートファクトリー(10)(4/4 ページ)
一気に進めることは難しいと思うんですが、スモールスタートするにはどう考えればよいでしょうか。
セキュリティに関することだけではないけれど、「止まったら困るところ」「情報が洩れては困るところ」から対策していくことかしらね。
確かに、止めても問題ないところは後回しでも問題なさそうですね。
既にIEC 62443シリーズなど制御システムセキュリティに関する国際標準化も進んでいて、さまざまなガイドラインなども出ているわ。全体像としてはこうしたガイドラインを参考にしつつ、個々には重要性の高いところから進めるというのが現実的なところではないかしら。
なるほど。分かりました。少し現実的に考えてみます。
サイバー攻撃の高度化が進む中、ITセキュリティも含めて、全ての攻撃を完璧に防ぐということは既に難しくなっています。その中で、早期に検知し、被害を小さくし、復旧を早くするということが求められています。常に侵入の可能性が残る中では、社内のネットワークに対しても100%の信用を置くことができないということを考えると、工場のセキュリティにおいても、ラインや機器ごとに安全な区画を構築し、それらを組み合わせて、多重に防御できる仕組みを作っていくということがポイントだと考えます。そういう意味では、重要性の高いところからセキュリティ対策を施していくというところが、現実的です。
まだまだ、工場の運用とセキュリティ対策との溝は大きく残っていますが、セキュリティベンダーなども、制御セキュリティ専用機器の投入や工場の運用性を妨げないネットワークセキュリティソリューション、古い機器への対応ソリューションなども徐々に増えてきています。
サプライチェーン内での工場データのやりとりも今後増える中、メーカー間の取引でも工場のセキュリティ対策が必須となる状況もそう遠くないと見られています。実際に、自動車の品質マネジメントの国際規格である「IATF16969」では、工場のサイバーセキュリティ対策についての項目も追加されており、「品質」や「安全」の一環として工場セキュリティが捉えられる流れが生まれています。その意味でも、経営面でもインパクトがある製品ラインからまずは取り組んでみてはいかがでしょうか。
さて今回はスマート工場化で必要性が増しているサイバーセキュリティについて議論してきました。次回も、製造現場において失敗するパターンや見過ごされがちなポイントについてさらに掘り下げたいと考えています。
≫連載「いまさら聞けないスマートファクトリー」の目次
- “柔軟に変化する生産ライン”のカギであるAGV、その価値と課題
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。前回から製造現場でつまずくポイントとその対策についてお伝えしていますが、第9回では、マスカスタマイゼーション実現のカギとみられる無人搬送車(AGV、AMR)について取り上げます。
- スマート工場の約半分がサイバー攻撃で生産停止、その内4割以上が4日以上止まる
トレンドマイクロは2021年4月23日、日本、米国、ドイツの3カ国を対象とする「スマートファクトリーにおけるセキュリティの実態調査」の結果を発表した。本稿ではその内容を紹介する。
- 工場を襲うサイバー攻撃の大半は“流れ弾”、トレンドマイクロが“おとり”調査
トレンドマイクロは2020年3月13日、2019年に5〜12月にかけて実施した「工場向けサイバー攻撃おとり調査」の結果についてメディア向けに発表した。本稿では、その内容を紹介する。
- 狙われるIoT/OTデバイス、約5割がIoTデバイスのサイバー攻撃を経験
パロアルトネットワークスは2020年11月4日、国内企業におけるIoT(モノのインターネット)とOT(制御技術)デバイスのサイバーセキュリティ対策の実態を調査した「IoT/OTサイバーセキュリティジャパンサーベイ 2020年版」の調査結果を発表し、IoTセキュリティにおける対策について紹介した。
- スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。
- なぜ工場でネットワークを考えないといけないのか
インダストリー4.0や工場向けIoTなどに注目が集まっていますが、そもそも工場内のネットワーク環境は、どのように構築すべきなのでしょうか。本連載では、産業用イーサネットの導入に当たり、その基礎から設備設計の留意点などを含めて解説していきます。
- スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。
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