―― 新社長就任の発表会見では研究開発に注力する方針を打ち出しましたが、その狙いは何ですか。
小島氏 会長の東原(敏昭氏)が行った事業ポートフォリオの出し入れにより成長の基盤はできた。そこからの成長をドライブするのが私のミッションだ。この成長は、自社の力で生み出すオーガニックなものと、買収などによるインオーガニックなものとの2つがある。ただし、今後はグローバルレベルの大きな買収は予定していない。そこで重要になるのがオーガニックな成長だが、研究開発によるレバレッジ(底上げ)が必要だ。自身の力でイノベーションを起こさなければならない。もちろん、大学や研究機関、スタートアップなどとのオープンイノベーションも従来通りにしっかりやっていく。
―― 小島氏は研究所配属で入社し、研究所所長やCTOを歴任するなど、研究者としてのキャリアを重ねてから社長に就任しました。そういった研究者、技術者が社長になることをどう捉えていますか。
小島氏 これからも技術のことをよく分かるトップは増えていくだろう。技術はどこかから買ってきたらいい、という時代はもうすぐ終わる。米中摩擦などを含めて技術を囲い込みする傾向が出始めており、グローバルで技術を簡単に調達できるという前提はなくなりつつある。技術を自前で開発するか、少なくとも技術のトレンドがどうなるかは分かっておく必要がある。そのときにトップ自身が技術を分かっていれば判断を素早く行える。最近参加しているダボス会議(世界経済フォーラム)でも、技術系のトップは増えてきているように感じている。
―― 今後も、小島氏のような研究所出身者が日立の経営層にも増えていくのでしょうか。
小島氏 社長になることがその人にとって幸せかどうかは別にして(笑)、研究者のうち何割かは経営に興味を持つタイプの人がいる。ただし、会社の中だけを見ていてもダメで、外を見る山っ気が必要だ。私も米国でスタートアップと仕事をしたときにオフィサーとしての役割を担い、経営のスリルとサスペンスを味わったが、このときにジェットコースターに乗っているような面白さを感じられた。そういう人は、研究者であっても経営に関わっていけるのではないか。また、この外を見るということは、個人にとっても企業にとっても成長を目指す上で重要だと感じている。
―― リーマンショックからの日立の回復と成長を継続してきた歴代社長のバトンを受け継ぐことになりますが重さを感じませんか。
小島氏 日立があの大規模な最終赤字から復活する中で、川村(隆)氏はまず止血を行い、中西(宏明)氏は止血後の方向性として「社会イノベーション事業」を打ち出して回復に努めた。そして現会長の東原は、成長に向けた基礎工事として事業ポートフォリオの入れ替えを強力に進めてくれた。各社長は最善の仕事をしてきたわけで、この基礎の上に成長する建物をつくっていく。確かにバトンは重たいが、これを受け取ってしっかり走っていきたい。
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