日立製作所は、同社 取締役会長 執行役の中西宏明氏の退任に合わせて、社長兼CEOの東原敏昭氏が会長兼CEOに、代表執行役 執行役副社長 社長補佐を務める小島啓二氏が新たに社長兼COOに就任する人事を発表した。「Lumada」の立ち上げに尽力したことで知られる小島氏は、今後の方針として「徹底的にスピードアップしていく」ことを掲げた。
日立製作所(以下、日立)は2021年5月12日、同日開催した取締役会において、同社 取締役会長 執行役の中西宏明氏が現在の全ての役職を退任して相談役に就任するとともに、取締役 代表執行役 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏が執行役会長を兼任する人事を発表した。中西氏は同年5月11日に、健康上の理由から経団連(日本経済団体連合会)会長の退任を発表しているが、日立の経営の一線からも退くことになる。
今回の取締役会では、同年6月23日開催の定時株主総会終了後の人事として、新たな取締役 代表執行役 執行役社長兼COOに、代表執行役 執行役副社長 社長補佐(生活・エコシステム事業、ヘルスケア戦略担当)、CISO兼ライフ事業統括本部長兼ヘルスケア事業成長戦略本部長を務める小島啓二氏が就任することも決定した。6月23日からは、東原氏が執行役会長兼CEOを、小島氏が執行役社長兼COOを担う体制に移行する。
小島氏は1956年9月生まれの64歳。1982年3月に京都大学大学院理学研究科を修了した後、同年4月に日立に入社し中央研究所に配属された。その後、米国カーネギーメロン大学への派遣や、日立コンピュータプロダクツ米国法人への出向などで海外経験を積むなどして、2004年4月にはユビキタスプラットフォームグループ インターネットプラットフォーム事業部副事業部長に就任。2008年4月に研究開発本部に戻って中央研究所所長となり、2011年4月に日立研究所所長、2014年4月にCTO兼研究開発グループ長など、研究開発部門の要職を歴任した(2012年4月からは執行役常務も務める)。2016年4月からは研究開発部門を離れ、執行役専務 サービス&プラットフォームビジネスユニット CEOに就任し、現在日立が推進しているデジタルソリューション群「Lumada」の立ち上げに尽力した。2018年4月には、現職の代表執行役 執行役副社長 社長補佐に就任。2019年4月からは、ライフセクターのトップとなる、ライフ事業統括本部長兼生活・エコシステム事業統括本部長も兼任し、日立ハイテクノロジーズの100%子会社化や画像診断事業の売却、日立アステモの立ち上げといった事業再編を担ってきた。
日立は今回の人事発表と同日の2021年5月12日に、オンライン会見を開き、東原氏と小島氏が新たな経営体制に向けた意気込みなどを語った。
東原氏は「今後の日立の成長ドライバーは、Lumadaを中心とするデジタル技術を用いた社会イノベーション事業だ。小島氏は1982年に情報分野の研究者として入社以降、世界トップクラスのデジタル技術の研究開発に従事してきた。2016年にはサービス&プラットフォームビジネスユニット長として、日立ヴァンタラの米国人メンバーとLumadaをスタートさせ、現在のLumada事業の基盤を築いた。研究開発部門時代の米国での4年間の駐在を含めて、Lumadaのグローバル展開を加速するのに最適な人材だ。また、ここ2年間のライフセクターにおける幅広い分野の事業構造改革の推進にも携わっている。小島氏が持つデジタル技術とLumada事業の深い造詣と構造改革を断行する実行力は、デジタルで成長していく日立の社長として最適だと取締役会が判断した。Lumadaのさらなるグローバル展開を加速するこのタイミングでの社長兼COOに最適な人材だと私も確信している」と語る。
小島氏は「突然の指名で大変驚いているが、東原氏とともに日立を社会イノベーション事業のグローバルリーダーにすることに全力を注いでいきたい。日立の入社から一貫して取り組んできたテーマは『データから価値を創る』ということ。中央研究所ではデータベースの高速化について神奈川工場でのモノづくりを含めて製品化したところからキャリアが始まっている。2000年に入ってからはデータを補完して活用するためのデータストレージシステムの開発に従事したが、これは米国の日立ヴァンタラの主力製品になっている。2016年からはサービス&プラットフォームビジネスユニットのCEOとして、データから新たな価値を創るためのビジネス基盤となるLumadaを立ち上げた。2019年からは、ライフセクターの長として、自動車、家電、医療といった事業の収益性を向上させるという観点で構造改革を指揮し、これら分野におけるLumada事業の拡大も並行して取り組んできた。社長兼COOに就任しても、データから新しい価値を創って、顧客や社会にお届けするということを一貫して追求していきたい」と述べる。
さらに小島氏は「データから価値を創る」という事業を行う上での日立の強みとして、IT、OT(制御技術)、プロダクトの3つを併せ持つことを挙げた。「さまざまなプロダクトを実際に提供するからこそ、それらが実際に使われる現場やデータ、OTなどを理解できる。その理解の上で、ITを使って顧客や社会に価値を創っていくという一連の流れをトータルなソリューションとして提供できる」(小島氏)という。
日立はリーマンショックの影響で2008年度に約8000億円もの最終赤字を計上した後、社会イノベーション事業に特化した企業となるべくさまざまな事業構造改革を進めてきた。特に、2019〜2021年度の「2021中期経営計画」では、日立化成や日立金属などの売却や、ABBのパワーグリッド事業の買収、ホンダ系サプライヤー3社の統合による日立アステモの発足など、かなり大きな事業ポートフォリオの入れ替えを行っている。小島氏は「これらの事業ポートフォリオ入れ替えで、ようやくグローバルに社会イノベーション事業を展開するのに必要なアセットが整ってきたと感じている。これからはいろんな社会課題の解決に果敢に挑戦していき、社会イノベーション事業のグローバルリーダーと認知されるように全力を注いでいきたい」と強調する。
今後、日立をどのような会社にしていきたいかについては「データとテクノロジーを使って社会インフラを革新し人々の幸せな生活を支える。この使命に共感する多様な人材に日立に集まってもらい、日立のアセットをフルに使ってやりたいことや夢を現実にしてほしい。これまで以上にオープンでダイナミックな会社にしていきたい」(小島氏)とした。
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