筆者がソニーに入社して4年目のころ、9インチのモニターを設計していた。テレビ撮影の野外ロケで使用するモニターだ。このモニターはハンディー製品であったため、“高い位置から落下させても問題が起きないこと”という社内規格があった。まだブラウン管の時代の製品であり、ガラス製のブラウン管は結構な重量であった。
いざ落下試験を行ってみると、ガラスのネック部分が割れてしまった。だが、設計的にはネックがぶつかる所はどこにもない。また、不思議なことに、試験の2回に1回くらいはネックが割れないのだ。結局、この原因が分かるまでに、落下試験を繰り返しブラウン管を5個も破損させることになってしまった。とても苦い経験である。
原因は、ハーネスであった。製品を落下させると、重たいブラウン管のネックは製品内部で大きく動く。ネックの先端には基板が付いており、その基板にはコネクターが刺さり、そこからハーネスが出ている。ネックが動くと空中にあるハーネスが別部品に接触してハーネスがピンと張り、基板を介してネックにストレスがかかって割れてしまう……ということだった。
筆者は、落下によってネックが10mm程度動くとは知らず、またハーネスがガラスのネックを割ってしまうなどということは考えもしなかった。これは筆者の経験不足であった。しかし、ここで大切なことは、試作品であるハーネスの空中での位置を、試作組み立てのときに取り決めた位置にしていなかったことだ。落下試験にハーネスの位置は関係ないだろうと思い込み、いいかげんな位置のままにしていたのだ。前述した、試作品の準備を入念にしておくことを怠ったために発生した出来事だ。
原因がハーネスにあると分かるまでに、同じ試験を何度も繰り返す羽目になり、ブラウン管を5個も割ってしまったことは、試作コストと時間のムダ遣いに他ならない。ハーネスを試作組み立てのときに取り決めた位置にしておけば、このような事態を招くことはなかったのだ。
(次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
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◆著書
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