スタートアップのエクサウィザーズが発売した2眼レンズ搭載のAIカメラ「ミルキューブ」。小型スピーカーなど家電製品のようなデザインだが、Jetson Nanoを内蔵するなど性能は高い。しかし、ソフトウェア/ソリューション開発企業のエクサウィザーズがハードウェアを開発する狙いはどこにあるのか。
2020年8月、AIソフトウェア/ソリューション開発を手掛けるスタートアップのエクサウィザーズが高性能2眼レンズ搭載のAIカメラ「ミルキューブ」を発売した。特徴の1つはそのデザイン性にある。現在市場に多く出回るAIカメラの多くは、一目見れば「カメラ」だと周囲に伝わりやすいフォルムとなっている。これに対してカラーリングを施した立方体形状のミルキューブは、カメラというより、まるで小型スピーカーなど家電製品のようなデザインに仕上がっている。
だが、“インテリア感”を前面に押し出した見た目を裏切るかのように、処理性能は高い。GPUとしてNVIDIAの組み込みAIコンピュータ「Jetson Nano」を筐体に内蔵しており、工場現場の不良品検知や物流支援などの用途にも十分適用できる。AIカメラを開発するためにJetson Nanoを活用する事例は多数あるが、Jetson Nanoそのものを最終製品に組み込んだAIカメラを市場投入している例はあまりない。
珍しい点はもう1つある。基本的にソフトウェアを中心とするAI開発企業でありながら、エクサウィザーズはミルキューブのハードウェア設計、開発を内製化しているのだ。
ソフトウェア開発企業であるエクサウィザーズが、ハードウェアを開発した狙いは何か。また、開発体制はどのように整えたのか。エクサウィザーズ AIプロダクト事業部 Vision企画グループリーダー 土倉幸司氏に話を聞いた。
ミルキューブの10cm四方サイズで、本体重量は490g。画像解像度は1920×1080ピクセル、フレームレートは30fpsで、2眼レンズを採用している。カメラセンサーとしてソニーの裏面照射型CMOSイメージセンサーを搭載した。暗所性能が高く、介護や病院などの夜間見回りや薄暗い部屋でも十分な撮影性能を発揮する。なお、ソニーに対してエクサウィザーズは、デバイス供給を受ける代わりにAIの技術トレンドや顧客ニーズをフィードバックするという形での協力関係にある。
GPUはJetson Nanoを採用し、筐体に内蔵した。これによって、撮影した画像をミルキューブ上でほぼリアルタイム解析できる処理性能を実現した。
土倉氏は「現時点でJetson NanoをAIカメラ内部に直接組み込んでいるプロダクトはありそうでない。開発元のNVIDIAからも『Jetson Nanoをカメラに搭載してプロダクト化したのはユニークだ』と評価された。カメラにGPUを組み込まず、別途用意したAIコンピュータと連携、処理する仕組みも考えたが、ハードウェアとシステム構成がいたずらに複雑化しかねない。ユースケース拡大という観点で見ると、カメラのみで完結しているオールインワンの構成がベストだ」(土倉氏)と説明する。
また、ミルキューブのハードウェア構成は可変式となっている。ユースケースに応じて、レンズを望遠レンズに差し替える、イメージセンサーを4K対応のものにカスタマイズするなど最適化可能だ。
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