運輸事業者の電動車に対する姿勢はさまざまだ。電動車の導入に積極的なのはタクシー事業者だ。全国ハイヤー・タクシー連合会では、タクシー車両における電動車の比率を2030年までに40%まで引き上げる目標だ。2019年度時点では法人タクシーの台数の18%が、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、EV、FCVなどの低燃費車となっている。
タクシーでの電動車導入拡大に貢献しているのがトヨタ自動車のタクシー専用のLPガスハイブリッド車「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」だ。2021年2月末時点で2万4000台が導入された。ただ、「耐久性に優れるタクシー専用車はジャパンタクシー以外に選択肢がない」(全国ハイヤー・タクシー連合会)というのが現状だ。また、LPガススタンドの廃業が相次ぎLPガス車を使えない地域が増えているという課題もある。
全国ハイヤー・タクシー連合会は、ユニバーサルデザインのタクシー専用車両でFCVやEVの選択肢が増えることに期待を寄せている。「一定の台数が見込めるタクシーであれば、FCVの量産効果に貢献できるのではないか」(全国ハイヤー・タクシー連合会)。ただ、EVやFCVをタクシーとして導入するには、車両価格の低減、バッテリー性能の向上、急なバッテリー切れへの対応なども不可欠だとしている。
軽商用車のユーザーである全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会は「短距離のゼロエミッション車=EV」という前提に立ち、軽商用車のEV化に向けた要望を訴えた。現行モデル並みの最大積載量を確保すること、2WDと4WD、AT(CVT含む)とMTなど多様なニーズに応える仕様の展開、緊急輸送や立ち往生に備えた追加の燃料補給手段の確保などを自動車メーカーに求めた。また、赤帽は個人事業主の運営であることから、個人事業主が購入・維持しやすい車体価格やランニングコストであることも必須であるという。従来と同等の平均使用年数や平均走行距離も要望した。
乗用車ではなく商用車を使うトラック運送事業者とバス事業者も、車両の価格にはシビアだ。日本バス協会はメンテナンスの課題に言及した。バス事業者の中には自社の整備工場でメンテナンスを行うという企業もあるためだ。故障診断スキャンツールの標準化や共通化、電動車対応の整備機器のコストアップ、故障時の対応などが全ての電動車に共通する懸念であるという。FCVの場合は水素タンクなどFCV特有のシステムのメンテナンスが発生する点や、水素タンクのレイアウトによっては高所作業が必要となることも難点だとしている。また、水素ステーションへの往復や、充電待ちでの稼働時間の短縮も課題として挙げた。
全日本トラック協会は、電動車を含む次世代トラックのうち、実際に使用している事業者が少ないEVやFCV、液化天然ガス(LNG)車は評価が難しいとしている。次世代トラックの中で先行して普及しているHEVについては、運転特性や静粛性、環境性能、保守性能などの面で一定の評価が得られている。従来のディーゼル車と同様に軽油を使用できる点や、車両総重量25トン以上で長距離輸送での活用が期待できる大型トラックが市場投入された点も好意的に捉えられている。
一方、同じく次世代トラックとしては先行して普及した圧縮天然ガス(CNG)車は、新規登録台数だけでなくスタンド数も減少傾向にあるという。充填時間の長さや走行距離の短さなどの短所が克服されておらず、ディーゼル車と比べていまだに車両価格も高いと指摘した。運転特性や静粛性、環境性能、保守性能などは一定の評価がなされているとしている。LNG車は、走行距離がタンク1基で600km確保できる点や、充填時間が軽油と同等以下であることから、長距離輸送での活躍に期待を寄せた。
EVについては、充電設備の導入コストの高さや積載量とバッテリー搭載量のバランス、トラック用の公共の充電スペースが不十分であることが課題として挙がった。充電時間の長さや充電作業の負担、自車整備に向けた習熟なども現状ではEVのデメリットだとしている。トラックでのFCV導入に関しては「バスで指摘された課題を克服して製品化してほしい」(全日本トラック協会)とコメントした。
運輸事業者はいずれの分野も厳しい事業環境に置かれている。減税や補助金などで電動車の導入を支援しても、走行距離の短さや充電時間の確保などによる業務効率の低下や、ランニングコストの負担の影響が大きければ、経営にダメージとなりかねない。運輸事業者が「使える」と思える電動車の投入や、使い続けられる環境を整えることも不可欠になりそうだ。
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