この仮説を基に「空想」と「具現」のステップを経て生まれたのがBlack Hole Recorderだ。SCHEMA クリエイティブ・ディレクターの小塚仁篤氏は「この量子ブラックホールの話はとても難しい。そこを分かりやすくするため、ブラックホールではなくブラックコーヒーとして考えてみた」と述べる。コーヒーカップをブラックホールに見立てて、そこにブラックコーヒーを注ぐ。そして、カップからコーヒーの香りが蒸発してくることで、中に入っているのがコーヒーであることが分かる、というものだ。
このような形で、理解が難しい情報ストレージデバイスとしての量子ブラックホールを捉えつつ、それを分かりやすく示すデバイスとしてデザインしてBlack Hole Recorderが生まれた。
量子ブラックホールを、情報を蓄積するだけでなく読み出しも行えるストレージデバイスとする上で重要だったのがブラックホールを2つ用意することだった。量子ブラックホールの内部構造は玉ねぎのような積層構造になっており、内側の層に欲しい情報がある場合にはそれより上の層を取り除かなければアクセスできない。そこで、上層の情報はデータ転送装置を介してもう1つのブラックホールに蓄積すれば、情報を失うことなく欲しい情報を読み出すことができるというわけだ。
また、Black Hole Recorderのデザインに蓄音機を採用した理由については「ブラックホールなどを表す極座標系や時空の曲がりが蓄音機のホーン部のデザインと似ていること、また目に見えない音というものを初めて記録し再生できるようにしたデバイスであること」(テイラーイノベーションズ プロダクトデザイナーの中田邦彦氏)などを挙げた。
なお、実際のBlack Hole Recorderは録音/再生デバイスにすぎない。だが、未知への好奇心が未来をつくる可能性を可視化する「役に立たないプロトタイプ」の第1弾として日本科学未来館で一般展示を行う。Black Hole Recorderは、会期中の周囲の音を全て録音し、この録音データを地球から最も近い数千光年先のブラックホールに送ることを目指しているという。
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