アポロ11号による人類初の月面着陸から50年。長らく進展のなかった月面探査に大きな動きが生まれつつある。2007年にスタートした「Google Lunar XPRIZE」をきっかけに国家と民間による月面探査が活況を呈し、新たなフェーズに入りつつあるのだ。大塚実氏が、月面探査の最新状況について報告する。
アポロ11号による人類初の月面着陸から50年。この半世紀の間に、宇宙開発は大きく様変わりした。当時は冷戦の真っ只中。宇宙開発は国威発揚や軍事の側面が強かったが、現代、宇宙は人々の生活に欠かせないインフラとなった。宇宙旅行など、使い方も多様化しており、衛星やロケットでは、民間の存在感も大きい。
しかし一方で、月面については、アポロ計画以降、長らく大きな進展は無かった。その風向きが変わり始めたのは、2000年代に入ってからだ。日本、中国、インドが相次いで大型の月周回ミッションを実施。再び月が注目され始めると、2013年には、中国の「嫦娥3号」が、旧ソ連の「ルナ24号」以来、37年ぶりとなる着陸を果たした。
注目すべきは、地球周回軌道と同じように、月面探査にも民間が進出し始めたことだ。大きなきっかけとなったのは、2007年にスタートした「Google Lunar XPRIZE(GLXP)」である。これには、日本からもispaceが主体となるHAKUTOチームが参加。残念ながら、期限内に月面まで到達したチームは出なかったものの、大きな成果を残した。
そのあたりの経緯については以下の記事を参照してほしいが、国家と民間による月面探査はさらに活況を呈し、現在、新たなフェーズに入りつつある。今回の記事では、フォローアップとして、月面探査の最新状況についてお伝えしたい。
前述のように、GLXPは「成功チーム無し」という結果で終わったものの、GLXPによって実力を付けた有力チームは、GLXPの終了でも諦めることなく、開発を継続していた。一番手となったのはイスラエルのSpaceILだ。2019年2月に、ランダー「Beresheet」の打ち上げを実施。同国初、そして民間初の月面着陸を目指した。
Beresheetは打ち上げ後、地球を周回しながら高度を上げ、同年4月に、月周回軌道へ到達。その後、降下を開始し、月面着陸に挑んだが、降下中にメインエンジンが停止したと見られ、月面に激突してクラッシュした模様だ。しかし、民間主導のランダーがついに月面まで到達したというのは大きなマイルストーンになったといえる。
GLXP後の新たな動きとして注目しておきたいのは、NASA(米国航空宇宙局)が開始したプログラム「Commercial Lunar Payload Services(CLPS:商業月面輸送サービス)」である。これは、NASAが民間から、月面への輸送サービスを購入するというもの。NASAが提供する資金は、10年間で総額26億米ドル(約2850億円)になる模様だ。
NASAはこれまで、国際宇宙ステーションへの輸送においても、同様の支援プログラムを実施してきた。民間にとっては、開発資金を得られるメリットがあるし、NASAにとっては、競争による低コスト化や高速化が期待できる。CLPSプログラムは、それを月面まで延長しようというものだ。
2018年11月に、最初の選定企業9社が公表された。1年後には、さらに5社が追加され、CLPSの参加企業は以下の14社となった。
ロッキード・マーティン(Lockheed Martin)のような伝統企業も入っているものの、その多くはニュースペース(新しい宇宙産業)だ。中でも、GLXPの有力チームでは、AstroboticとMoon Expressの名前が見える。その他に注目すべきはDraper研究所。代表は米国企業である必要があるため、上記リストにispaceの名前は出ていないが、このチームで中心的な役割を果たしているのは同社なのだ。
ispaceは、独自の月面探査ミッションを2021年に実施する計画で、現在ランダーを開発中。Draper研究所は、このランダーの航法誘導制御システムを担当している。2023年に実施する2回目のミッションでは、ローバーによる月面探査も実施する予定。CLPSプログラムへは、これらのミッションの中で対応する考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.