理化学研究所の数理創造プログラム(iTHEMS)と、クリエイティブブティックのSCHEMA、addictが参画するプロジェクトUseless Prototyping Studioは、同プロジェクトの第1弾プロトタイプとして、未来の情報ストレージデバイス「Black Hole Recorder(ブラックホール・レコーダー)」を制作したと発表した。
理化学研究所の数理創造プログラム(iTHEMS)と、クリエイティブブティックのSCHEMA、addictが参画するプロジェクトUseless Prototyping Studioは2021年3月12日、東京都内で会見を開き、同プロジェクトの第1弾プロトタイプとして、未来の情報ストレージデバイス「Black Hole Recorder(ブラックホール・レコーダー)」を制作したと発表した。遠い将来、ブラックホールを制御できるようになったときに、情報を蓄積できるデバイスとして利用することを見据えて開発された、ブラックホールストレージのプロトタイプ(模型)としてのデザインコンセプトになる。2021年3月14日と3月17〜21日の期間、日本科学未来館(東京都江東区)の7階で一般展示を行う予定だ。【訂正あり】
Black Hole Recorderは、理化学研究所 iTHEMS 上級研究員の横倉祐貴氏が2020年7月に発表した論文「蒸発するブラックホールの内部を理論的に記述」の理論を基に、クリエイターがブラックホールを大容量情報ストレージデバイスとして活用する未来を空想し、その未来の可能性を機能と仕様としてデザインし制作したものだ。
蓄音機の形状を模したBlack Hole Recorderには、月の質量に相当する物体を約0.1mmの大きさに圧縮することで生成したブラックホールが上部と下部に1つずつ格納されている。2つのブラックホールと、それらの間をつなぐデータ転送装置により、データの蓄積だけでなく読み出しも行える(という設定になっている)。
蓄積できる情報量は約1052GB(10那由他バイト)にもなる。10那由他バイトといってもそのスケールを想像するのは難しい。例えば、地球上全ての粒子の情報を集めた情報量が約1052バイトといわれているので、1052GBは地球1G(10億)個分の情報量ということになるが、それでもピンとは来ないだろう。とにかく、直径約0.1mmのブラックホールにはとてつもない情報量を蓄積できるということだ。
【訂正】Black Hole Recorderの蓄積できる情報量について、当初は1那由他バイトとしておりましたが、リリース文の訂正に合わせて10那由他バイトに修正しました。
そもそも、このBlack Hole Recorderを生み出したUseless Prototyping Studioの活動は何を目的にしているのだろうか。理化学研究所 iTHEMS プログラムディレクターの初田哲男氏は「アインシュタインが提唱した一般相対性理論は、当時は多くの人間が理解できず、さらに何の役に立つか分からないといわれていた。しかし、約80年たった現在、GPSの位置測位を正確に行うために相対性理論は必須のものになっている。もし相対性理論がなければ、位置が11kmずれてしまう」と語る。
一般相対性理論のように、起こりそうな未来を見通す「フォーキャスト思考」や、起こり得る未来から現在のあるべき姿を考える「バックキャスト思考」から生まれたわけではない科学理論の未来に向けたポテンシャルについて、科学者とクリエイター、デザイナーが協力して仮説、空想、具現の3ステップで可視化しようというのがUseless Prototyping Studioの狙いだ。初田氏は「iTHEMSは約50人の理論研究者が集う、数理科学者の梁山泊のような組織だ。基礎科学は『役に立たない』といわれることも多いが、多様性のある研究が思いがけない未来を生み出すはずだ。Black Hole Recorderという形でブラックホールの可能性を具現化することで、サイエンスに興味がない人にもアプローチしていきたい」と強調する。
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