身近にあるモノを題材に、それがどのような仕組みで動き、どんな機構が使われているのかを分かりやすく解説する連載。今回は、自転車のタイヤを回す「巻き掛け伝動機構」とギアチェンジの仕組みについて取り上げる。
皆さま、こんにちは! プロノハーツの久保田です。最近、日頃の運動不足を懸念して自転車を購入しました。毎週末は子供を連れてサイクリングを楽しみ、普段のちょっとした買い物も自転車で行くようになりました。乗ってみると本当に便利ですね。
筆者が暮らす地域は坂が多いのですが、ギアを変えれば坂道もスイスイと上っていけます。ガソリン代の節約にもなりますし、良い運動にもなって一石二鳥! 今回はそんな自転車から機構を学んでいきたいと思います。それでは「身近なモノから学ぶ機構設計“超”入門」のスタートです!
連載第5回でも自転車をテーマに、後輪の軸部分にある「ラチェット機構」を取り上げましたが、今回は実際にタイヤを回している「巻き掛け伝動機構」について見ていきたいと思います(図1)。
巻き掛け伝動機構とはチェーンやベルト、ワイヤなどを、プーリやスプロケット(鎖歯車)、滑車などに巻き付けて動力を伝達する機構です。特に駆動軸と被駆動軸が離れている場合、ムダに大きな歯車をかませたり、小さな歯車をいくつも重ねて力を伝えるよりも、合理的かつ比較的容易に力を伝達することが可能です(もちろん、減速比や位置決めの精度を考慮して歯車を選択すべきケースもあります)。
ベルトとプーリーを使った機構(ベルト・プーリ機構)は、多くの家電製品や装置などに使われています。3DプリンタのXY軸の駆動に用いられていることも、以前紹介しましたね(関連記事:3Dプリンタや光学ドライブから“回転を直線運動に変換する機構”を学ぶ)。筆者が所属するプロノハーツの社内では、3Dプリンタの他に、ボール盤やプリンタの中から巻き掛け伝動機構を発見することができました(図3)。皆さんのご自宅でもいくつか見つけられるかもしれません。
ベルトの種類にも平ベルトやVベルト、タイミングベルトなどの種類があり、回転速度や荷重などによって使い分けが必要です。また、チェーンに比べると、ベルトの重量は軽く、振動や騒音も少ないため、“高速回転が可能”という特徴も備えています。
それでは、自転車について見ていきましょう(図4)。分解するまでもなく、一目で分かりますよね。チェーンとスプロケットを使った巻き掛け伝動機構が使われています。
ペダル側のスプロケットが原動車、後輪側が従動車となり、ペダルを漕ぐ力がチェーンを使って後輪に伝動し、後輪が回転することで自転車が進んでいきます。
また、後輪側のスプロケットの近くに小さなスプロケットが付いていますが、これは「テンショナ」といってチェーンのたるみを防止するため、チェーンにテンションを与える部品です。
自転車はギアを変えるとスプロケットの大きさが変わるため、必要なチェーンの長さも変化します。しかし、自転車の構造上、ペダルの軸と後輪の軸の距離は変えることができませんので、チェーンの長さを可変させるための仕組みが必要となります。そこで、登場するのがテンショナです。このテンショナがギアチェンジと連動して動くことによって、必要なチェーンの長さを保ち、チェーンをたるませることなく変速することができるのです。
……と、ここで解説が終わってしまうともったいないので、以降でもう少し詳しく自転車の仕組みについて見ていきましょう。
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