VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第9回は、「自分の経験から考える」「当事者に聞く」という2段階の「洞察」を行うことで問題の本質に迫り、「問題を見つけ出す」作業を完了させる。
前回は、帰納法を用いた「整理」と「要約」を実際に行ってみました。テーマは「コロナ禍におけるリモートワークで生産性が上がらない原因」でした。思い付く原因をランダムに出して、整理し要約した結果、考えられる原因として「会社の制度や仕組み、自宅環境ともにリモートワークを想定したつくりになっていない。それが働く意欲を阻害している」というのがこの時点での結論でした。
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この作業で得られた要約は、事実を観察した結果で出てきたものなので、「観察的要約」と呼ばれます。しかしこれで、「仮説を立てる/問題を見つけ出す」作業が終わるわけではありません。ここからさらに、「そもそも、なぜそうなってしまったのか」を探っていくことで問題の本質に近づくことができます。その作業を「洞察的要約」といいます。
洞察的要約のポイントは2つ、すなわち、「自分の経験から考える」ことと「当事者に聞く」ことです。
現場で問題を解決していく過程では、観察的要約の過程が省かれ、情報収集から直接洞察的要約の作業に飛んでしまうことが少なくありません。しかし、それでは本当の意味での事実に基づいた仮説をつくることができません。
例えば、問題に関連する情報を集め、上司に相談したとします。上司は「自分の経験」から問題解決の方法を「洞察」するでしょう。しかしその洞察の根拠は、事実ではなく個人的な経験則に基づいた思い込みである場合が多くあります。VUCAの時代には過去の経験則は通用しませんし、一人の主観的思い込みからも正しい問題解決の方法は出てきません。洞察とは、客観的事実の整理から得られた観察的要約から、複数の人たちの経験と実感によって導き出されるものなのです。
では、実際に洞察的要約を進めてみましょう。「コロナ禍におけるリモートワークで生産性が上がらない原因」に対して観察的要約で得られた仮説は、「会社の制度や仕組み、自宅環境ともにリモートワークを想定したつくりになっていない。それが働く意欲を阻害している」でした。
なぜそうなっているのかを、まずは自分の経験から考えてみます。この場合の「自分」は「自分たち」でも構いません。つまり、自分一人で考えてもいいし、何人かでディスカッションをしてもいいのです。重要なのは、ノイズになりそうな意見でも気にせずに、とにかくたくさんの視点を出してみることです。結果、以下のような視点が出てきたとします。
これらは、「自分」もしくは「自分たち」を主語にした洞察です。この洞察を基に、問題の「当事者に聞く」のが次の段階の作業です。では、「当事者」とは誰でしょうか。リモートワークで働く社員、つまり「自分/自分たち」以外の当事者としてこのケースで考えられるのは、「マネジメント職」「人事部門などの制度設計者」「経営層」などでしょう。それらの当事者にインタビューあるいはアンケート調査をするのが「当事者に聞く」ということです。その作業によって、先に挙げた項目を1つ1つ確認していくわけです。
立場が異なれば、当然視点も異なります。複数の視点を総合することによって、問題の輪郭が明確になり、より問題の本質に近づくことができます。その結果成立するのは、例えば以下のような洞察的要約です。
「リモートワークのメリットは認識されていたが、それを推進する体制がなかった」
後は、これが事実かどうかを確認すれば「問題を見つけ出す」作業は完了します。要約の内容によっては、データなどの数値での証明が必要になる場合もあります。
これら一連の作業によって問題が何かが定義できました。ここまで来てようやく、第4のステップである「解決策の方向を決める」に進むことができます。
大手メーカーへ新卒入社し、エンジニアとして勤務後、2005年にエンジニア派遣事業を展開する株式会社VSNへ中途入社。エンジン、トランスミッション、エアーバッグ、カーオーディオ、ブレーキ、メーターなどの頭脳部分となる車載用マクロコンピュータの開発に従事後、エンジニア全体の組織の管理職としてエンジニアの組織化を推進。
その後、問題解決の育成プログラムの構築やコンサルティングサービスの促進を担当。2021年1月からグループ会社であるアデコ株式会社のアウトソーシング部門へ出向し、請負業務におけるコンサルティング視点での活動強化に携わる。
アデコグループジャパン https://www.adeccogroup.jp/
Modis VSN https://www.modis-vsn.jp/
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