当時、リチウムイオン電池を搭載したPCや携帯電話で発煙・発火事故が多発しており、その5000倍以上の電池容量(最近のEVは電池容量が大きく2万倍を超えるケースもある)を搭載するEVはより危険性が高いと思われていた。そのため、(1)セル単体(2)モジュールもしくは電池パック(3)ボディー構造のそれぞれに対する安全性、信頼性を徹底的に鍛えて開発していった(今では当たり前かもしれないが)。
日本でEVが販売された直後は、“EVはモーターと電池があれば町工場で誰でも作れる”として、いわゆる「スモールハンドレッド」が話題となった。しかし、安全性や信頼性などをエンジン車並みに担保することは容易ではなく、この話は立ち消えとなっている。
その後、三菱自動車「アウトランダーPHEV」、トヨタ自動車「プリウスPHV」などPHEVも発売されたが、ある意味これらも第1世代と呼ぶことができる。
第1世代はあくまでパワートレインをエンジンからモーターに変えたものであり、クルマとしてエンジン車に匹敵する高度な自動車技術を目指したものであった。後にEV市場を席巻するTesla(テスラ)のことを考えると、この頃の主眼は自動車技術であり、ITのウエイトはあまり高くなかった。
様子が異なってきたのは、2017年に発売されたテスラ「モデル3」あたりからだ。モデル3は、米国の運輸省道路交通安全局(NHTSA)の衝突安全性テストで5つ星の安全性評価を得ており、その中でも最高点を獲得するなど高度な自動車技術に対応してきた。さらに、テスラの入門モデルというポジションながら、高度なITも備えた。
モデル3はインストゥルメントパネルのセンターに大型ディスプレイを設置し、自動車としての操作をディスプレイ上だけで行うことが可能である。さらに自動運転機能、ソフトウェア自動アップデート機能(OTA: On the Air)なども搭載しており、まさにインテリジェントカーとしての登場であった。なお、テスラは自動運転用のAIチップを自社開発し、統合ECU(電子制御ユニット)として組み込んでいる。
このように2016年ごろより、次世代EVは高度な自動車技術とITの両方を備えることが必須となり、1台を開発する負荷が極めて大きくなってきた。それはテスラだけにとどまらずVW(フォルクスワーゲン)などのドイツ勢も同じであろう。
そのため、今後のEV開発責任者は、電動化技術を進化させて取り入れるだけでなく、半導体や通信技術など、これまで自動車メーカーが弱かった技術を他社とコラボレーションしながら開発する必要がでてきた。EV開発責任者に要求される範囲が一気に広がってきたのである。
2030年以降となると、その傾向はますます強まるであろう。前回のコラム『日本は「自動車産業After2050」を考えるときではないか』で述べたように、半導体や通信だけでなく、モビリティと電力システムの融合なども必要になってくる。つまり、これまでの自動車という範囲から、自動車技術や半導体、通信、エネルギーなどの技術を融合した“総合モビリティシステム”の形になっていくと思われる。冒頭、「ステージが変わったことを意識せよ」と述べたのは、このためである。
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