探査機本体の今後についても紹介しておこう。探査機は、カプセル分離の1時間後の12月5日15時30分から16時30分まで、3回に分けて、「TCM-5」の噴射を実施、地球からの退避に成功した。前述のカプセル撮影の2分後に地球へ最接近、スイングバイで進路を変え、新たな旅に出発した。
はやぶさ2の主ミッションは、これまで実施してきた小惑星リュウグウへの往復探査だった。それに対し、ここからの新たな探査は「拡張ミッション」と呼ばれる。はやぶさ2の推進剤であるキセノンは、まだ半分以上が残っている。その他の各機器も今のところ問題はなく、新しい旅への余力は十分ある。
拡張ミッションのメリットは、なんと言っても、格安で探査を行うことができるということだ。探査機は既に軌道上にあるので、製造や打ち上げは不要。地上の運用費程度しかコストがかからない。また、既に当初の目的は果たしており、いわば“減価償却済み”。失敗を恐れず、挑戦的なことをしやすい環境にある。
とはいえ、どこにでも自由に行けるわけではない。燃費に優れるイオンエンジンであっても、残りの推進剤でランデブーできる天体は限られる。それに、どんな天体でも良いわけではなく、行く意味、つまり科学的な面白さもなければいけない。
JAXAは、候補となる1万8002の天体から、(1)2031年末までに到着できる、(2)太陽から遠すぎない、(3)軌道が正確に分かっている、といった条件で、絞り込みを実施。スコアの高かった2天体、小惑星「1998 KY26」と「2001 AV43」が最終候補として残った。
これら2つの小惑星に共通するのは、直径30〜40mと、非常に小さいこと。リュウグウやイトカワも小さい小惑星なのだが、それよりもさらに1桁小さい。これほど小さい小惑星に到達した探査機は過去に例がなく、実現すれば世界初となる可能性がある。
そして、自転周期が10分程度と、高速であることも大きな特徴だ。地上の感覚だと、1周が10分というのは高速と思えないが、こんな小さな小惑星だと、重力よりも遠心力の方が大きいという、不思議な世界になる。表面に何かモノを置いたとしても、そこにとどまることはできず、浮き上がってしまうのだ。
そのため、表面に砂はなく、1枚岩の可能性が高いと考えられているが、ラブルパイル(集積型)ではないとも言い切れない。まさに行ってみないと分からない世界で、科学的にも非常に興味がある。
こうした天体の探査は、プラネタリーディフェンス(スペースガード)への貢献も期待される。数10mクラスの小惑星は、地上に大きな被害をもたらすのに十分なサイズで、衝突頻度も100〜200年に1回程度と比較的大きい。今後危険な小惑星が見つかったとき、壊すにしても軌道を変えるにしても、まずは知見を高めておくことが重要だ。
2つの小惑星のうち、最終的に目的地として選ばれたのは1998 KY26の方だった。こちらはリュウグウと同じC型小惑星の可能性があり、はやぶさ2の観測装置を生かしやすい。一方、2001 AV43は途中で金星も観測できるという魅力があったが、金星軌道まで太陽に接近するため、熱的に厳しいという問題が大きかった。
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