この他、視聴者からの質問で多かったのが「データの取り扱いをどう考えればよいのか」という点である。
これについて志田氏は「あまり悩みすぎない方がよい」と訴える。「生産データは膨大なもので、格納するストレージコストも大きくなるため、従来は間引きしたり、抽出したりするなど、制限をかけて使うケースがほとんどだった。しかし、クラウドの発展やデータ活用の枠組みの進化などもあり、以前のように制限をそこまで気にする必要はなくなってきている。ただ、後に生かせるデータでなければならないため、意味がある情報として格納していく必要がある」と語る。
同様に中川氏も「先進技術によりデータの扱いの自由度は高まっている」と訴える。「日本の製造業では、もともとはデータが多くなりすぎると持て余すという考え方もあったが、技術の進展でその考え方を変える必要が出てきている。生産機器から生まれる膨大なデータでも圧縮や重複排除で小さくすることができる。伝送路も発展しており、そうなると従来は我慢が必要だったところも我慢しなくてよくなる。データそのものにタグをつけるオブジェクトストレージという考え方も出てきており、後でデータを活用することを容易に行える仕組みも広がってきている。データを集めるだけ集めて、後で活用を考えるということも行いやすくなっている。そういう意味ではデータの扱い方に頭を悩ませるよりも、何がやりたいのかを中心に考えていける時代に入ったといえる」と考えを述べている。
また、小澤氏も目的の重要性について訴える。「データ活用の目的や費用対効果などを考えれば、どこにデータを保管しどのように活用する方法がよいのかは、自動的に決まってくる」(小澤氏)。
さらに、小澤氏は時間軸としての技術の発展についても気を配るべきだとする。「今あるものだけを考えて、標準などを固定化すると、将来的に新たな技術が出てきた場合に対応できない場合も出てくる。今後5年や10年で考えた場合、新たな技術は必ず出てくる。目的ややりたいこととその枠組みなどは考えておくべきだが、技術を固定化するのは避けた方がよい」と語っている。
これらの取り組みを進める中で費用対効果の問題なども出てくる。特にスマート工場化は「費用対効果を社内で示しにくい」という声が多くある領域だが、どういう考え方で取り組めばよいのだろうか。
志田氏は「費用対効果といえば、短期的な経営指標だけで捉えがちだが、その他の2つの視点を加えて考えるべきだ。1つは長期的に市場や環境が変化する中で、持続可能性も含めて最適な体制としていく観点での費用対効果である。もう1つは、市場競争としての面で、競合がこうした仕組みを先に導入した際の競争力が維持できるのかという観点での費用対効果だ。これらの複数の視点を示していくことが重要だ」と述べている。
小澤氏も企業競争力の観点の重要性について訴える。「企業競争力として差別化につながるかどうかという観点で、ビジネスと結び付けて価値を訴えていく必要がある。それも中長期的な視野で示すことがポイントだ」と語っている。
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