スマート工場への取り組みが広がる一方で、成果が出せずに悩む企業が多く存在する。その要因はどういうものがあるのだろうか。本稿ではスマート工場化の進め方について、オムロン、アクセンチュア、ネットアップが参加したパネルディスカッションの様子をお伝えする。
スマート工場への取り組みが広がる一方で、成果が出せずに悩む企業が多く存在する。その要因はどういうものがあるのだろうか。また、解決するためにはどういうポイントを意識すべきなのだろうか。
こうしたスマート工場化や工場におけるデータ活用の疑問に答えるために、ネットアップは、2020年12月10日にオンラインセミナーイベント「スマート工場を支える『データ活用』の正解例 〜クラウドとエッジ、データの置き所と現場ノウハウの活用方法〜」を開催した。
本稿では、その中で視聴者の質問をベースにスマート工場化の進め方について議論したパネルディスカッションの内容をお伝えする。パネリストとしては、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 i-BELTプロジェクト 部長の小澤克敏氏、アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 インダストリーX.0 エンジニアリング領域リードの志田穣氏、ネットアップ ソリューション技術本部 SE第3部 部長の中川拓也氏が参加した。
パネルディスカッションでは視聴者からの事前質問を募集していたが、「そもそものスマート工場化に向けたデータ活用の考え方」や「データ収集後の活用の方法が分からない」など前提的な考え方などに多くの関心が集まっていた。そこで「スマート工場化を進める上での前提的なポイント」から議論が始まった。
スマート工場化のポイントについて、アクセンチュアの志田氏は企業の全体像としての視点から「スマート工場となると製造業におけるコアの部分の改革となるために、経営陣の関与が重要になる。本来は経営が掲げる戦略との整合性があるべきだ。しかし、現実的にはデジタル技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)などが“打ち出の小づち”的な扱いをされ、丸投げになっているケースが多い。経営戦略とスマート工場化をすり合わせて進める必要がある。その上で、現場の推進役としては若い人に挑戦させることがポイントだ」と考えを述べた。
さまざまな製造現場の制御機器を提供し、「i-BELT」を通じて現場革新サービスなども提供しているオムロンの小澤氏も志田氏の意見に賛同する。「そもそものスマート工場の定義や目的が何かが社内で一致させておく必要がある。将来の工場がどういうもので、KPIをどう位置付けて、どういう姿になっていくべきかを描き、それに対して現在との差分を取り、デジタル技術をどう当てはめていくのかという順番で進めれば、必然的にやるべきことは決まってくる。そうなっていないのは、それぞれの部門や立場で定義し、それがかみ合っていないからだ」と課題について指摘する。
さらに小澤氏は具体的に問題を抱えている領域として「現場と経営の間がつながっていない」という点について訴える。「装置の生産性を上げたいということであれば、具体的で分かりやすく、取り組みやすい。しかし、それはスマート工場として見た場合には局所的で、オートメーション化の一部として捉えるべきだ。今描かれているスマート工場化を実現するためには、現場領域とそれよりも上位のMES(製造実行システム)やERP(Enterprise Resource Planning)システムとどうデータを結んでいくのかという考え方が必要になる。現場から抽出されたデータが、基幹システムで管理されている経営計画にどう結び付くのかを示されなければならない。この現場と経営をどう結ぶかという点がポイントだ」と小澤氏は述べている。
また、ネットアップの中川氏はデータの取り扱いという視点から「データの連携という意味で考えた場合、それぞれのデータを線としてつなぐだけでは難しい。IoT(モノのインターネット)などで得られる工場のデータは、製造現場における解釈がなければ判断できないものも多い。一方で、ERPなどの経営データはIT部門で管理されるケースが多いが、IT部門と現場部門が同じ場で話をする場面がそもそも少なく、ここで共通理解を作るのが難しいという課題がある。経営陣が方向性やロードマップなどを示して初めてこれらの壁が壊せるのではないか」と語る。
それでは、この現場層と経営層の間が結び付かない“分断”をどのように埋めていけばよいのだろうか。
志田氏は「それぞれの部門にミッションやKPIがある中で、個々に話し合って決めるのは難しい。多くの部門が自部門の業務しか分かるような状況になっていないからだ。経営陣など上位層がこれらを結び付けるために業務プロセスのアーキテクチャを示すなどをして交通整理をするか、横断的に結ぶことを目的とした部門や担当者を置くということが必要になる。これが自社内で難しい場合は、外部企業に頼るという手もある」と語る。
同様に小澤氏も「データをつなぐ作業は誰の仕事なのかをまず決めることだ」と訴える。「企業の経営として運営している以上、本来は上位層、コントロール層、実行層がそれぞれ独立したものではなく、マスターデータが共有され連動して動くべきものだ。しかし、実際には従来はシステム面の問題や人の問題があり、そうはなっていない。間で人手の作業が入ることでデータの精度や粒度、頻度などが下がり、現場で成果だと考えることが、経営価値として見えづらい状況になっている。工場側としてもこうした現場のスマート化や改善の成果を経営価値として示すために、データをつなぐ仕組みや方法などを考えなければだめだ。これが明確に見えてくれば、スマート化における課題や狙いどころも自然に見えてくる」と語っている。
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