東芝が技術戦略を発表。中期経営計画「東芝Nextプラン」では、2018〜2020年度で成果が得られたフェーズ1を継続しつつ、フェーズ2を推進していくための2021〜2025年度の事業計画を発表しているが、今回発表した技術戦略では、この新たな事業計画の中核に据えたインフラサービス事業をどのように進めていくかについての説明があった。
東芝は2020年12月3日、オンラインで会見を開き、技術戦略について説明した。同社は同年11月11日、中期経営計画「東芝Nextプラン」について、2018〜2020年度で成果が得られたフェーズ1を継続しつつ、フェーズ2を推進していくための2021〜2025年度の事業計画を発表している。今回発表した技術戦略は、この新たな事業計画と対応するものだ。
会見の前半では、2020年4月に新たに東芝の執行役常務 CTOに就任した石井秀明氏が登壇し、CPS(サイバーフィジカルシステム)カンパニーを目指す同社の技術戦略の基本方針を構成する「サイバー方針」と「フィジカル方針」について説明。後半は、同社 コーポレートデジタイゼーションCTO&デジタルイノベーションテクノロジーセンター長の山本宏氏が、東芝IoT(モノのインターネット)レファレンスアーキテクチャ(TIRA)をベースとする「システム方針」について解説した。
東芝の技術戦略説明会は車谷暢昭氏が代表執行役社長 CEOに就任して東芝Nextプランを発表した2018年から3年連続で開催されている。3回目となる今回の発表では、これまで基礎収益力の強化に向けて選択と集中を進めるフェーズ1のタイミングでの発表となったこれまでと大きく異なり、今後のフェーズ2でインフラサービスカンパニーとして安定成長を目指すことを前面に押し出し、技術戦略の方向性をより明確にしている点が大きな特徴になっている。
石井氏は「東芝の強みであるシステムやデバイスでどうやって社会課題を解決していくのか。このことを起点にしたインフラサービスの創出に向けて、これまで打ち出してきた技術戦略を整理し、明確化したのが今回の発表になる」と語る。そして同氏は、東芝がインフラサービスで取り組む社会課題として「脱炭素化」「インフラ強靭(きょうじん)化」「ニューノーマル対応」の3つを取り上げた。
まず脱炭素化については、エネルギーを作る、送る、ためる、使うというエネルギーチェーン全体を通して進めていく考えだ。東芝は、太陽光、水力、地熱、蓄電、電動化などの技術で世界トップ、国内トップの実績を持っているが、これらの強いシステムやデバイスに、AI(人工知能)やドメイン知識をベースとしたデジタル技術を融合することが最も重要になる。
そういった脱炭素化の取り組みを象徴しているのが、仮想発電所と呼ばれるVPP(Virtual Power Plant)になる。「複数の電力リソースをIoTでバーチャルに統合し、AIを活用した予測技術により、再生可能エネルギーの安定需給を最適制御するものだ」(石井氏)という。
インフラ強靭化における代表例は「気象防災ソリューション」になる。気象データに加えて、気象レーダーやインフラセンサーなどのデータから気象や水象を予測し、災害に強い社会インフラの実現に貢献する。さまざまな社会インフラでシステムやデバイスが用いられている実績がある東芝だからこそ、データの収集と予測内容に基づく対策のフィードバックが可能になる。
ニューノーマル対応では、スマートマニュファクチャリングと物流ソリューションで大きな成果が得られつつある。スマートマニュファクチャリングの中核となるのは、東芝のモノづくりの知見やノウハウを結集し、実運用と改良を重ねた製造業向けソリューション「Meisterシリーズ」だ。モノづくりIoTと、O&M(運用とメンテナンス) IoTの両面から、現場のリモート化や自動化を実現する。
物流ソリューションいついては、ロボット制御向けの知能化物流ロボット群から、実行制御を担う機器運用最適化サービス、入出庫・在庫管理を行う倉庫業務管理サービスの3階層で対応を進める。特に、ロボット制御と実行制御の観点で同社のAI技術が役立っている。
これらインフラサービスを支えるAI技術としては、データの連携と活用、人との協働、エッジ処理という3つの要件を重視して開発を進めている。前回の技術戦略発表では、AI人材について2019年度の750人から2022年に2000人まで増やす方針を示していたが、1年経過した現時点で約1200人まで増えており、新規採用や社内育成を含めて順調に進んでいるという。
研究開発投資については2019〜2023年度の5年間で総額9000億円を予定している。2019年度と2020年度が1500億円強なので、2021〜2023年度の3年間は2000億円弱まで投資を増やすことになりそうだ。最も注力するのは、今回の発表でも前面に出したインフラサービスやデータサービスで、2019年度の23%から2025年度には36%まで伸ばす見込みである。また、脱炭素化に関わる再生可能エネルギー関連の研究開発投資も、2020年度の170億円(関連事業の売上高に対する比率は約10%)から今後も強化していくとしている。
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